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第6話 眠らない熊(6)

「今日の夜、みんなを集められるかしら。」

 ギジロウが自室で旋盤の自動送り機構を考えていると、ルースが夜に集会をしたいと相談に来る。

「それは、全員か?」

「いえ、採掘してくれる人だけでよいわ。それ以外の人も来てくれても問題ないわ。」

「なら、ベンを筆頭に採掘組を呼ぶか。内容は錫石の探索のために水晶洞窟に向かう話でよいか?」

 ギジロウは集めるべき人をルースと口頭でやり取りして、呼びかけのためにルースと一緒に部屋を出る。

 

「いきなり集まってもらって申し訳ない。」

「大丈夫だぜ、兄貴。それで俺らが集められたということは採掘の話か。」

 ベンを筆頭に集まった人たちは床に座りお互いの顔を見ながら、なぜ集められたのかを口々に話し合う。

「えっとだな、みんなには今度、新しい鉱物を採掘してきてもらいたい。詳細は――」

「ギジロウ、そこからは私が説明するわ。」

 となりで聞いていたルースがギジロウの説明を遮る。

「えっと、先日はマンテングマと遭遇して皆さんに本当に大変な目に合わせてごめんなさい。」

 その場が一気に静まり返る。

「私も鉄鉱石の採掘がうまくいったから油断していたけど、今回の件で、ここが未踏の森ということを思い出したわ。それでも私はニーテツを取り戻すために、もう一度皆さんにあの採掘拠点に行って採掘をしてほしい。どうか協力いただけないかしら。」

 ルースが頭を下げる。

「ルース様、頭を上げてください。」

 その場に来ていたナターシャが立ち上がってルースの元に近づく。

 そしてルースの片手を握る。

「ルース様、あなたが引っ張てくれたから私たちはここに居ます。別に前回の一件を誰も責めたりはしませんよ。」

 ナターシャの言葉を皮切りに、その場にいた人々はルースに非が無いこと、ルースについて行くつもりであると言葉を投げかける。

「皆さんの言うとおりです。私たちもニーテツを取り戻したいという気持ちは同じです。ぜひ協力させてください。」

「あ、ありがとう。」

 そのルースの言葉を聞いてルースの手をさらに強く両手で握りしめてナターシャは元居た場所に戻り座る。


「よし、ルース改めて説明を頼んだ。」

 ギジロウは会議の場を仕切りなおす。

 ルースからは今回の目標が水晶洞窟を探検して錫石を手に入れることが目的であると説明をする。それ以外にも採掘拠点の拡張などいくつかの副次目標を伝え、誰がやるのかを決めていく。

 そして最後に足元に置いていた箱から2つの道具を取り出す。

「今回はみんなの作業の安全のためにこの道具をみんなに渡したいと思うわ。」

 左手には銅でできたベルを、右手にはランプが握られていた。

「使える人が限られてしまうけど、魔力を込めると動作する道具よ。」

 ルースはランプを床に置いてベルを片手でもちながら、反対の手で各部品の説明を強いてく。

「これは、この部分が魔法陣になっているわ。使える人にはわかると思うけどこの魔法陣の部分に魔力を込めると――」

 ルースの手元からベルの音が響き始める。

(おぉ、遠くに知らせられる道具が欲しいと言った際に何か考えると言っていたのはこのベルだったのか。かなり大きな音が出るし少し離れていても聞こえそうだな。しかし、どうやって動いているんだ?)

 そんなギジロウの疑問はルースに気付かれることはなく、ベルを床に置いてランプを手に持ち替える。

「こっちは、ランプよ。ここもこの魔法陣に魔力を込めると――」

 ルースの手元でランプが光り始める。

「それだけではないわ。こっちを覆うようにして光が漏れなくなった後に、この横のボタンを押すとシャッターが開くわ。」

 ルースがランプの横についているボタンを押すとランプの正面のシャッターがパカパカと動き点滅しているように見える。

(魔法発電と白熱灯を1つの箱に収めたのか。そして、攻撃魔法以外で魔力を込めるだけで発電できる魔法陣が開発できたのか。)

 ギジロウはルースの魔法陣の開発能力に舌を巻く。


 ルースの取り出した道具を見て、みんなは少しキョトンとして、どう反応してい良いかわかっていない様子だった。

 ルースは思ったような反応じゃなかったことに焦りを感じたのかギジロウに助け舟を求める。

「みんな、実際に手に取って魔法が使える人は試しに使ってみてくれ。」

 ギジロウはルースに道具をみんなの前に持っていくようにジェスチャーをする。

 ルースは道具を箱に入れてベンの前に置く。

 ベン自身は魔法が使えなかったため側にいた別の人に懐中灯を渡し、その人が魔力を込めると懐中灯が光った。

「おー、すごい。」

 1人が使い始めると他の人も懐中灯を手に取り操作を始める。

「これは、どういうときに使えば?」

「ベルは魔獣に遭遇して他の人を呼びたい時に使うといいわ。ランプについては水晶洞窟に潜る際はもちろん。発光信号としても使えるわよ。」

 ルースはランプを手に取り横のボタンを短く3回、長く3回押した。

「この、短い光と長い光を組み合わせて意思疎通ができるわ。ちょっと習得には時間が掛かるから実際にみんなが使うのはだいぶ先だと思うのだけど。」

 ギジロウが教えて救難信号のリズムでルースはボタンを操作する。

「ルース様、ありがとうございます。」

「こんなに私たちのことを考えてくれてうれしいです。」

「あ、ありがとう。」

 ルースはなぜか感謝の言葉をみんなに示す。

「なんで、ルース様がお礼を言うのですか?」

 その場にいた人からも明るいツッコみが入る。

「そ、そうね。ランプとかはルッチやカイナが作っているものだから丁寧に扱ってね。」

 みんなからは、明るい返事が返ってくる。


 数日からギジロウ、ルースを筆頭に錫石の探索が始まり、割とあっさりと錫石は見つかる。

「だいぶ深い位置にあったけど、無事に採掘できたな。」

 石英の採掘より少し潜った位置で、錫石は採掘できた。

「ルースと俺が潜ったのはこれよりもさらに下だったぞ。」

「兄貴はそんなに深く潜ったんすか! 勇気あるな!」


 取った鉱石は迎えの馬車が車で一旦倉庫におかれている。

「いや~。採掘はつかれるな。たまにはゆっくりとお風呂にでも入りたいぜ。」

「確かに。スッキリしたいね。」

 ベンとシーが倉庫に錫石を降ろしながら溜まった疲労の取り方を話している声がギジロウの耳に届く。

(そういえば、温泉にはみんなを連れて1回も入っていないな。)

「そうだ。明日は温泉に行こうか?」

 倉庫の入り口にギジロウは立ち、何も聞こえていなかったかのように振舞いながら温泉に行くのはどうか2人に聞いてみる。

「いいのか、兄貴!」

「たまには良いだろ。みんなも疲れているみたいだし。拠点防備工事組は温泉行きたいか?」

 ギジロウはたまたま通りかかったロンに話しかける。

「是非、私たちも行きたいです! 明日は開拓地からの荷物の受取りと返送があるので、みなさんに手伝ってほしいです。」

「そうだな、午前中に荷物を受け取って午後に行くとするか。」


 翌日昼頃、レンが操縦する馬車が開拓地にやって来て、食料の荷下げと採掘した鉱石の積込を行う。

「それでは、開拓地に戻るね。」

「おぉ、落とさず確実に持ち帰れよ。」

 レンが馬車に乗り込もうとすると、森の中からベルの音が小さく響く。


「違う、なにか出たんだ! 戦えない人は馬車に乗れ! レン、適当に出発しろ!」

 ギジロウは大慌てで大雑把な指示を出す。

「は、はい!」

 ロンが採掘拠点の中を駆け回り、採掘や炊事担当などに仕事を放棄して馬車に乗るように伝えて回る。

「ギジロウ! まさかマンテングマが再び出たのかしら?」

「わからない、ベルを鳴らした人が心配だ。」

「そうね、すぐに向かいましょう。」



 ベルが鳴る場所に向かうと罠の点検をしていた3人組が、ゆっくりとクマと対峙しながら撤退している。

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