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第6話 眠らない熊(4)

 1代の馬車がゆっくりと街道が進む。

 馬車には2人の怪我人が寝かされており、自らの力で歩けない人たちが俯きながら座っている。

 歩ける人は交代で馬車の周囲を囲むように周囲を警戒しながら随伴している。随伴者はときより遠くを見ているが、ほとんどは足元を見ている。

「どうして、クマは逃げていったのかしら。あんなに攻撃魔法を撃っても効いている感じではなかったのに。もしかして、石灰の粉を掛けると攻撃が効きやすくなるのかしら?」

 ルースも馬車に揺られながら、採掘拠点へと続く道の先を見る。

 誰も言葉を発しない中、ルースの疑問にみんな耳を傾ける。

(みんな、何か別のことを考えたいのか。)

「なんで、逃げていったのかはわからないな。今回俺が狙ったのは石灰の発熱を利用したやけどだ。」

 生石灰に加水すると熱を発生させる。ギジロウはクマの毛に生石灰をまとわせて水を掛けることで、クマを倒そうと考えた。

「倒しきれたかしらね。」

「わからないが、少なくとも軽いやけどくらいは負っているだろ。」

 誰もが考えていた脅威が去ったのかという疑問は晴れることはない。


 開拓地に戻り怪我人の手当てが行われ、開拓地内にこの件の噂話が瞬時に広がる。


 夜、主要メンバーだけが食堂に集まる。

「今回戦ったクマについて知っている人はいるか。」

 集まったメンバーに対して、単刀直入に質問をぶつける。

「当時の状況を私もうわさでは聞きましたが、そのクマには私たちは一度会ったことがあります。当時私たちはお腹の模様からマンテングマと呼んでいました。」

「そうなのか。」

「私たちが湖の拠点に辿り着く1つ前に拠点にしていた場所で出会いました。」

 ナターシャが膨大な死者を出した、逃亡中に起きたマンテングマとの戦いについて覚えていることを語りだす。

 ナターシャ達は同じ場所にとどまっているときに何度かマンテングマの襲撃を受けていたらしい。

「結局、10人以上が死亡したところで、せっかく整ってきた拠点を放棄するという決断をしました。」

「クマは執念深いと聞いたことがあるが、やはりこのあたりでもそうなのだな。」

「えぇ、執拗に終われていたのだと思います。」

 ナターシャはその時のことを思い出したらしく、少し涙を目に浮かべていた。

「同じ個体かしら?」

「それは、わかりません。」

「まぁ、同じ個体だとしたら先にフローレンス達の拠点が襲われていそうだが。それで、当時はどうやって倒したんだ。」

「先ほども、お伝えしたように私たちは逃げただけで、倒せていないのです。」

「なるほど、ベンやルースは戦って気付いたことはあるか?」

 ギジロウは戦いに参加していた2人に倒す糸口を求める。

「まず、私の攻撃魔法が効かないわね。」

「ブラックボアと同じように魔法が効きにくい生き物なのか?」

「えっと、そうではなくてね。…………マンテングマは防御魔法が使えるようなの。」

「というと、どういうことだ。」

「つまりね、ブラックボアと違って受けきるのではなく、攻撃魔法を拡散して防ぐという生き物なの。」

「それって、攻撃魔法で倒せないということか?」

「攻撃魔法の拡散速度を上回る速度で攻撃魔法を撃ちこめば倒せると思うけど。」

「それを上回る攻撃魔法が投入できるほど人材がいないか。」

 ポーラがルースの発言に横から口を挟む。

「そうなのよ。」

「ということは、剣などで斬るしかないのではないか。」

 ポーラは携えた剣に手を当てる。

「それは、なかなか厳しいと思うぜ。師匠。」

「そうなのか。またどうしてだ。」

「兄貴たちが来る前には、動物向けの落下罠に誘導したりして倒そうと思ったんだけど、落下物が直撃しているはずなのに全く動じていなかった。それもそのはず、ぶつかる直前に物の落下速度が落ちていたんだ。」

「それって!」

 ルースが素早く反応する。

「いわゆる、逓減魔法よね。人ですら使うのが困難だというのに。」

 物理衝撃を和らげる魔法が使えるということがベンの報告で判明する。

(魔法もダメ、物理攻撃もダメか、これはお手上げだな。)

 ギジロウは顔に手の平を当てて天井を見る。

「ルース、逓減魔法って完全なる鉄壁なのか?」

「いいえ、そんなことはないわ。あくまでも威力が減衰するだけね。そうは言っても飛んできた矢の速度をゼロにするくらいはできるわよ。一般人の斬撃では無理だろうけど。ポーラならいけるかしらね。」

「期待していただき恐縮ですが、野生の逓減魔法なんて聞いたことが無いから何とも言えません。」

「そうすると、逓減魔法の減衰量を上回る物理衝撃を与えればよいということか?」

「そうなるわね。」

「それなら、マンテングマの討伐のために、大砲の開発を急ぐか……。」


 その日は大砲を作るということだけが決まり解散する。


 翌日からギジロウが考えたロードマップに従って開拓地内での作業が進められる。

「ルッチ、カイナ、旋盤の構造はこうだ。必要な構造に切り分けて加工できるか」

 ギジロウはカイナ、ルッチに旋盤についての基礎知識を教え込み、開拓地にいる人々みんなで協力して大きな旋盤を作るように指導する。カイナもルッチも開拓地についてから勉強に励んでいたため知識がルースには負けるが他の人よりは頭一つ抜けていた。


「カイナには木製の筐体を、ルッチにはベルトなど細かい部品の加工をお願いする。」

「さて、肝心の鉄の方は。」

 ギジロウは第2製錬小屋の入り口から中で作業をしているルースの様子を確認する。

 小さな炉の前ではルースが魔法陣を一生懸命構築しているようだが、なかなかうまくいっていない様子である。

(まだ、鉄すら作れていないから先は長いな。みんな期待しているしどうするか。)

 マンテングマが倒せるかもしれない、そんなみんなの希望の眼差しを前にしてギジロウは作れるまでまだ時間が掛かるということを伝えるタイミングを逃してしまった。

 本来であれば、設計が終わった後に材料を手配して加工していきたいとギジロウは考えていた。

(はぁ、加工とかはルース、カイナ、ルッチに任せてよいが、火薬の合成をどうするかぁ。)

「ギジロウ、ありがとうね。」

 ギジロウに気付いたルースが手を止めてギジロウの側にやってくる。

「どうした。」

「大砲の作成、必要な素材がまだ集まっていないのでしょ、本来ならまだ部屋で設計をしていたいんじゃない? それでも引き受けてすぐにみんなの作業を割り振ってくれて。」

 クマに仲間が襲われて久しぶりに出た重症人、そして亡くなってしまっていると予想されている行方不明者、さらに倒しきれておらず再度遭遇する可能性があるという恐怖心が拠点に蔓延する。

「みんな、マンテングマを倒すために何かしたいと思っても何をすればよいかわからなくて不安だったと思うわ。だから、討伐のために自分たちができる作業に没頭できるのは良いことだと思うのよ。」

「そういうもんかね。」

「そういうものよ。」



「それで、鉄の炉の方はどうだ。」

「ギジロウ、やはり魔法で温度を上げるのがかなり難しいわ。魔法陣自体が焼けてしまって、途中で消滅してしまうの。」

 どうやら魔法陣は煤で汚れたりして欠けてしまうと、魔法陣として機能しなくなるらしい。

「それにレンガが足りないわね。カイナとかに作ってもらうようにお願いできないかしら。」

 ルースは、やや白っぽいレンガを手に持ってギジロウに見せる。

「すまんな、このレンガは開拓地では作れない。フローレンス達に作ってもらわないといけないんだ。」


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