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第6話 眠らない熊(2)

「ロ、ロン大丈夫か。」

「獣に襲われました!」

 息を切らせながらロンが声を絞り出す。

 すぐにギジロウ、ルース、シノはロンの馬車に操縦する馬車に載り事件の現場に向かう。

 馬車が進み始めるとハイスが荷台に飛び乗ってくる。

「獣狩りならオオカミがいた方が良いな。」


 走りやすくなった道を全速力で馬車が駆ける。

「いつも通り、フローレンス様の拠点とを結ぶ街道の工事をしていたら、急に襲われました。」

 ロンが馬車をあやつりながら現在の工事状況も交えて状況を報告する。

「今はどこまで工事が進んでいるんだ?」

「えっと、石灰の採掘拠点からさらに進んでいます。あ、頭を下げて!」

 ロンが姿勢を低くして垂れ下がってきた枝をかわす。

 馬の頭上ギリギリを枝が過ぎていく。

 ギジロウ達もすぐに枝に気付き頭を下げて枝が頭上を過ぎるのを待つ。

「なかなかに遠いな。石灰の採掘拠点にはベン達採掘組が居たはずだがそちらに応援は頼んだか。」

「はい。けが人などは既に採掘拠点に運んでいます。エイダたちが面倒を見てくれています。」



「ロン! 止まれ! 危険だ!」

 採掘拠点が見えてきたところで、森の中からベンが道に飛び出して頭上で腕で×印を作りながら叫ぶ。

 ロンが慌てて馬車を急停止させたため乗っていたギジロウ達は勢いのまま馬車の前側に飛びそうになる。

(これは、シートベルトが必要だな。)

「兄貴、来てくれたのか。」

 ベンが停まった馬車に近づとギジロウが乗っていることに気付き嬉しそうに顔を明るくする。

 ギジロウはベンの体を見て獣相手に戦ってくれていたことを察する。

「ベン、こんなところでどうした? 採掘拠点の様子は?」

「採掘拠点まで熊が追いかけて来た!」

 獣の執念深さにギジロウは少し戸惑う。

「怪我人は? 拠点の小屋に寝かしていたのではないか?」

「なんとか、運び出していそこの茂みの影で横にして手当てしている。」

 ギジロウ達は茂みの中に入り、怪我人の様子を確認する。

 2名が横たわりそれぞれの傷を塞ごうと貴重な布が惜しむことなく傷口に当てられている。

「ここにいるのは、最初に出会った時に何とか逃れらた2人だ、もう1人いるけど行方が分からない。」

 ベンが悔しそうに唇をかみしめる。


 ルースが横たわった2人の側で膝をつき、手を握る。

「危険な目に合わせてごめんなさい。」

「大丈夫です、ルース様。ご心配をおかけしてこちらこそ……。エイダさんのおかげで出血は止まったようですから、そのうち元気になりますよ。」

 怪我を負った2人が声を振り絞る。

「わかったわ。すぐに開拓地まで運ぶから、ゆっくり休んでね。」

 ルースは立ち上がる。

「彼らを助けてくれてありがとう。」

 ルースはベンとエイダに感謝を伝える。

「い、いえ、でも、全員は……。」

「あとで、見つけ出しましょう。とりあえず今はこの2人を助けることを優先しましょう。ギジロウ、みんなで帰りましょう。」

「わかった。ベン、生きている人はみんなここに居るか?」

「それが、まだ2人拠点に残っている。」

「……まじか。」

 ギジロウはルースの方をチラッと見る。

「それなら、彼らも一緒に帰らないとね。」


 ロンが馬車の方向を転換して怪我人を馬車に載せる。

「シー。お前が護衛な。」

「えー! そうなの。僕なんかにそんなの務まらないよ。ベンじゃダメなの!?」

「俺は、残った2人を助けないといけない。エイダのことをしっかりと守ってくれ。」

 ベンがシーの肩を叩き、シーを励ます。

 エイダは乗った馬車の上からその様子を見つめる。

「ロン、慎重に素早くいけよ!」

 ギジロウの掛け声で馬車を開拓地に向かって進みだす。


 ギジロウ、ルース、シノ、ベン、そしてハイスが採掘拠点に近づき様子を確認する。

「残っている人は?」

「さっき確認したら、薪小屋に隠れていた。」

 ギジロウが顔を出して確認するがものが動いている様子はない。

「肝心の獣は?」

「さっきまで宿舎小屋の周囲を回るように歩いていたんだけど、どこ行ったんだ?」

「ギジロウ、宿舎小屋の扉が壊れているから、中に入ったんじゃないの?」

 ルースが宿舎小屋を指さす。

「宿舎小屋はガラス窓ではないから中の様子が分からないな。」

 獣の影が見当たらないかギジロウは望遠鏡を使って覗いてい見るが何もわからない。

「ギジロウ、どうする。」

「薪小屋に近づいてさっさと2人を連れ出そう。なるべく獣には出会わないようにしたい。」

 ギジロウがルース達の方を見ると、同意するようにルース達も首を縦に振る。

「そういえば、相手は何だ? ブラックボアではないよな?」

「兄貴、ロンから聞いていないのか? クマだ。」

「クマ? 普通のクマか? それともクマ型の魔獣ってことでよいのか?」

「わからない。お腹にまだら模様のあるクマだった。」

(クマか魔獣じゃなくても厄介そうだ。)

「それって――」

 シノが何か言おうとすると、獣が小屋の中から出てくる。


 ゆっくりと壊れた扉からひょっこりと少し可愛い顔が出る。そして、何も脅威が無いことが分かったのかのっそりと前に歩き、美しい焦茶色の毛並みを立たせながら小屋の外にでてくる。

 ブラックボアとはまた違う恐怖を抱かせるような獣の姿に思わずギジロウは固唾をのむ。

 丸い耳、太くて短い足、そして相手を傷つけるための鋭い爪。

(人生で野生のクマを見ることになるとは。)

 小屋の外に出たクマは周囲を威嚇するように2本足で立ち上がる。

 見えたクマのお腹には白色のまるで星空のような小さなまだら模様があった。


「まずい、薪小屋の方に向かったわ!」

 4足方向になったクマは何かに気付いたかのように薪小屋の方へ歩き出す。

「薪小屋にはまだ人が隠れているのだろ、ルース、とりあえず攻撃魔法だ!」

 ルースは茂みから立ち上がり熊に向かって攻撃魔法を撃つ。

 撃った攻撃魔法はクマの鼻先を抜けて宿舎小屋の壁に当たる。


 クマは動きを止めギジロウ達の居る方へゆっくりと顔を向ける。

 口を開け大きく息をしているのがギジロウにも伝わってくる。

「これは、やばいな。ベン薪小屋の2人はお前に任せる。俺らでクマの気を引く。」

 ギジロウは静かにベンに指示を出す。

「まかせたぜ、兄貴。」

 静まった森にクマの唸り声が静かに響く。

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