第5話 街道と街灯(9)
「攻撃魔法がどうしたの?」
「最近、洞窟を探索した時にブラックボアと出会ったことは覚えているか?」
「えぇ、まあ。」
ギジロウはルースが攻撃魔法を放った際に方位磁石がクルクルと回っていたことを思い出し、その時の状況をルースに話す。
「そんなことを発見していたのね、試しに実験してみましょう。」
ルースとギジロウは、一緒に外に出て暗くなった開拓地の中を森に向かって歩く。
「ギジロウ、ルース。こんばんは……。どこに行くの?」
森の方へ向かう2人を見つけたシノが声をかけてくる。
「シノか、森の中で実験しようと思ってな。今日も見回りか? ありがとうな!」
ギジロウはいつも通り、シノの頭を撫でて感謝を示す。
「ありがとう。北の森は獣がまだ出るから。南西の森の方が良いと思う。」
「そうか、アドバイス通り南西の森に行くようにするよ。」
実験をするのによさげな場所を見つけたら、適当な場所に方位磁石を置いてルースが攻撃魔法を放つ。
森の中に青白い光が瞬く。
「すまない! 遠くにいすぎて見えなかった。」
「もう! しっかり見ていてよね! 結構疲れるんだから!」
ルースは楽しそうにお小言をいいながらギジロウに言われた通り攻撃魔法を撃つ。
ギジロウも徐々にギリギリ安全な間合いを掴めるようになり、方位磁石の側を過ぎ去る攻撃魔法にも慣れて近づき方位磁石の針の様子を観察する。
「すごいな、思った通りだ。」
「そうなの!?」
攻撃魔法を止めたルースが方位磁石の元に走ってくる。
「まだ回っているわね。それで、何が分かったの?」
「攻撃魔法は磁力を変化させながら進むということがわかった。」
攻撃魔法自身が磁力を帯びているのかは不明だが少なくとも周囲の磁場を交互に変化させながら進むということをギジロウ達は発見する。
「発電への道筋が見えた!」
翌日、実験小屋にカイナとルッチを呼んで銅線を作ることを依頼する。
「そこまで細い線である必要はないから、引っ張れないか?」
「うーん、まあやってみますね。金属加工はやったことが無いですが。」
素材加工が上手なカイナであるが、自信なさげに答える。
「それで、コイルを作れるか? 直径はなるべく小さくしてほしい。」
ギジロウはコイルとは何かをルッチに説明する。
「それでしたら、糸巻に糸を巻く要領でできるかもしれないです。」
ギジロウの話を理解してカイナとルッチは2人でどうやって作るのかを話し始める。
2人にコイルの製作を任せたらギジロウはルースの元に向かう。
「先日からいろいろな材料を炭にしては光らせているわ。持続しないものが多いわね。」
机にはルースが実験の結果の残骸が並べられている。
「それと、電池? が弱くなってしまっているのかしら、光るまでに時間が掛かっているわよ。」
(恐ろしく効率は悪いからな。)
ギジロウが竹炭箸の欠片に電池をつないで再び光らせてみると、光が弱くなったように感じる。
「これがなくなったら、実験ができなくなるどころか。懐中電灯がつかなくなってしまうな。あまりやりたくなかったが、仕方ない。」
ギジロウは実験小屋から工具を持ち出し軽トラの元に向かう。
そして下に潜り込むと、鉛蓄電池を外した。
「最初っから、こうしていればよかったか。」
(危ないからできればむき出しで使いたくなかったのだが。)
「ギジロウ! なにそれ!?」
「ギジロウ殿、それはなんでしょうか?」
ギジロウが持ってきた鉛蓄電池をみんなが興味津々に眺める。
「これは、電池のもう少し強化したものだ。」
ギジロウは鉛蓄電池の危険性と取扱上の注意点をルースたちに伝える。
「この端子とこの端子を直接つなげると火花が散るから気をつけろよ。」
「は、はい!」
数日間、ギジロウはみんなでいろいろな実験を楽しんだ。
ある日。
「ギジロウ! あっという間に燃え上がったわ!」
「うわっ! 消せ! 消せ!」
バシャッ!
「ギジロウ殿、ルース様。失礼しました。」
カイナが桶に組んできた水をギジロウとルースに掛ける。
実験小屋の中に笑い声が響く。
別の日。
「それでは、みんな見ていてね。」
「アイナ、俺がいない間にルースは子供たち相手に何をやっているんだ?」
「なんか、開発中の明かりを見せてくれるそうですよ。」
ルースは鉛蓄電池と何かの植物の炭を接続する。
「おー、すごーい。」
子供たちから歓声が上がる。
しかし、次の瞬間に切れて光が落ちる。
「えっ、もう終わり?」
「もっと光らせてよー。」
子供たちからブーイングが上がる。
「えぇ、これでも長くなったのよぉ。」
時間にしてわずか15秒程度の明かりだった。
「ギジロウ、助けてぇぇ!」
(なぜ、ここで俺に振る。)
「みんな、まだ実験段階なんだ。この貴族様がいつかここを昼間のように明るくしてくれるぞ。だから、みんなも応援してあげてくれ!」
「頑張ってね。お姉ちゃん!」
ルースも開拓地のみんなを明るくしようと一生懸命、頑張っていてくれた。
数日後、ルッチからコイルができたと伝えられたため、森に行きコイルに向かって発電の実験を行う。
コイルを固定して2本の線を出しテスターへ接続する。
(なるべく巻き数は多くしているから、そこそこの高さの電圧が計測できると嬉しいが。)
ギジロウの持っているテスターは最低電圧が60mVである。
ギジロウの合図でルースがコイルに向かって攻撃魔法を放つ。
「せっかく作ったコイルが……変形して壊れてしまいませんか?」
ルッチが何とも言えない表情で実験の様子を眺める。
ギジロウは攻撃をなるべく細くなるように頼んでいるが、コイルの直径よりも太い魔法がコイルを貫いている。
(お、変化しているな。予想通りだ。周波数が計測できるということは……。)
ギジロウは魔法によって発電できるすべを見出した。
実験の成功に、ルースとギジロウは大喜びする。
「やったわね。これで一歩明かりに近づいたわ。」
「電気が無制限に使えるようになるのであれば、回路や信号が作れるぞ!」
各々違った視点で喜び、喜びを分かち合う。
「残ったのは、発光させるフィラメントだけだが。」
発電が完了し、回路のためにカイナとルッチに銅線の増産に励み、後は電球の作成のみである。
「もう少し違う場所に別の植物を取ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。」
夕方、ルースが新しい植物を持って帰ってくる。
「これは……。竹のようだが。どこで見つけたんだ?」
聞くとルースは北方の湖を越えてかなり北の方まで行っていたとのこと。
「実験の成功のためよ! 躊躇はしていられないわ!」
翌朝から竹を炭にして、鉛蓄電池に接続する。
「すごいわね。結構時間が経った気がするけど全然消えないわ。最長記録をどんどん更新しているわ。」
昼頃に灯した明かりは夕方を過ぎてもまだ光を放っていた。
1日が経過するころ、鉛蓄電池の方が力尽きて明かりが消える。
「これで、完成ね。」
その夜、いつもは真っ暗だった開拓地に1つの小さな明かりが灯る。
攻撃魔法で発電した電気を未踏の森で見つけた竹につないだ明かりは、ニーテツ奪還という明るい未来を追い続ける人々を優しく照らした。





