第5話 街道と街灯(5)
温泉から出たギジロウとルースはさっぱりとした気分で探索を再開する。
「塩が見つかったのは大きいわね。後はガラスの材料ね。」
「あぁ、必要なのは石英、ソーダ灰、石灰だ。このうちソーダ灰と石灰は手に入るから、あとは石英、つまり水晶をみつければOKだ。」
「ガラスの材料って意外に手に入りやすいものなのね、知らなかったわ。」
(まあ、俺らのような素人には加工が困難だと思うが、フローレンスの拠点にはガラスに詳しい人がいるらしいから何とかなるだろ。)
「それに高純度の水晶はそのまま加工しても使えそうだぞ。」
ギジロウはもっている水晶の望遠鏡を見つめる。
「確かにそれもそうだったわね。だけど水晶をそのまま加工できるかしら。」
水晶はモース硬度が7と非常に硬くもろいため加工にはかなりの技術が必要である。
「それは、見つかってから考えよう。」
しばらく森の中を進むと大きな洞窟を見つける。
ギジロウが持っている懐中電灯で中を照らすが何も照らせないとことから深く続いていることがわかる。
「水晶って洞窟の中にあるイメージなのだが。正しいのか。」
ギジロウは何となくのイメージで水晶のありかを語る。
「そうなのね、獣臭くもないし、すぐに入りましょう!なんとなく水晶が見つかる気がするわ。それに水晶以外の珍しい鉱物も見つかる気がするわ!」
ルースの好奇心に触れたのか急に早口になる。
「きっと、ギジロウが知っているけど、私たちにはよく知らない鉱物もあったり、ギジロウにとって必要な鉱物があるとよいわね。そしたら、きっといつか役に立つわね。」
(もう、全く好奇心が抑えきれていないな。)
ギジロウは新しいおもちゃを見つけた子供のような笑顔のルースを見つめる。
「そ、そうだな。水晶がありそうだし入ってみるか。気をつけろよ!」
1歩を踏み出したルースの足元がいきなり崩れ始める。
「あ、危ない!」
ギジロウはルースの腕を掴み支えようとするが2人で一緒に下に落ちていく。
「きゃーーー!」
「痛!」
ギジロウとルースは1メートルほど落下して斜面にぶつかる。
「まだ登れるか?」
ギジロウが登ろうと踏ん張ろうとすると斜面が崩れ、今度は斜面を滑り落ちていく。
(ずっと斜面なら良いがいきなり崖だと危ない!)
「ルース、飛行魔法を出せるか! 少しでも落下の勢いを相殺するんだ!」
「わ、わかったわ。」
「痛たたたた。」
ギジロウはルースが飛ぼうとして上に引き上げようとする力と重力の2つの力に引っ張られながら滑り落ちていく。
そして、洞窟内の泉に着水した。
「つ、冷たいわ。ギジロウ、どこ?」
ルースが手探りでギジロウを探す。
「ギジロウ、灯りは?」
「落ちたときに落とした! 陸地はどこだ? このままだと低体温症になりかねない! ルース! 一瞬でも良いから、光を放つ魔法はないか? 無理なら攻撃魔法でも良い!」
「それなら、発光魔法を使うわよ。かなり短いけど良い?」
「それで良い。頼んだ!」
「空間の1点に集中して、魔力をこんな感じに込めるのだったかしら?」
ルースが独り言を呟きながら魔法を思い出す。
「思い出してきた、行くわよ。発光魔法発動!」
ルースが叫ぶと、ルースの指先から少し離れた位置に光源が現れる。
「お、すごいな。」
「そんなに持たないわ! すぐに岸を探しましょう!」
ギジロウ達はすぐに周囲を見回し、側にあった岸へ這い上がる。
岸に上がる頃には既に発光魔法は力を失い暗闇に戻る。
時間にして数十秒程度であったが光を出せる魔法があることをギジロウ初めて知る。
何か光を放つものはないかとギジロウは濡れたカバンの中を漁る。キッチリと閉じていたカバンの中には水が入らなかったため、幸い荷物はほとんど濡れていない。
(予備の乾電池はある。工具とテスターを持ってきているな!)
「もう一度、発光魔法は使えないか?」
「使えるわよ。」
ギジロウはカバンの中から乾電池、テスターのプローブ、竹炭箸を取り出す。
「ギジロウ、発動して良いかしら?」
一瞬で最大限に明るくなる。
その間に竹炭箸を折って短くしてその両端にプローブの測定端子側の穴を嵌める。
発光魔法が光を失い暗闇が戻ってきた後、乾電池の両端にプローブのテストピンを当てると箸が発光する。
「よかった、うまくいった。」
技術の明かりでギジロウとルースはお互いの安心した表情を確認する。
「ギジロウ、そんなものが作れるのね。どうして、今まで作らなかったのかしら?」
髪の毛を拭きながらルースはギジロウに作っていなかった理由を聞く。
ギジロウは魔導書で作り方を知っていたが、効率が悪く電池がもったいなと思ったため作っていなかった。
休憩を終えたら即席懐中電灯で周囲を照らす。前後方向に道が続いているようすだったため、空気の流れを読み風が流れてくる方向にすすむ。
「食料はあるからゆっくり安全に進むか。」
途中、断崖絶壁になっている細い道を進んだり、洞窟内を流れる川を飛び石で乗り越えたりとギジロウとルースはちょっとスリリングな冒険をしながら地上を目指す。
途中でルースが綺麗な石などを見つけて拾い集めていく。
「すごいわね。手付かずの洞窟だから貴重な魔力鉱石があるわよ。」
「結構いろんな岩石が層になっているな。」
ギジロウが即席懐中電灯で照らすと岩肌が所々キラキラとする。
「見て見て、ギジロウ!」
ルースが立ち止まって指差す。
「水晶よ!」
それはそれは見事な水晶の結晶がそこにあった。
ルースはツルハシで周囲を削って水晶を掘りだそうとする。
「かなり大きいわね。」
「ルース、そんなに大きいのは持っていけないぞ。」
「え、でもぉ。」
物凄く名残惜しいという気持ちがこもった瞳でギジロウに訴えかける。
「え、ダメ? 1個だけでよいからぁぁ。」
甘えたような声で訴える。
「ここは未踏の森だろ。誰にも取られないから、また次に一緒に来ないか? 今度は、もっとしっかりとした探索道具を揃えて。」
ギジロウは即席懐中電灯でルースに顔を照らす。
「そ、そうね。また、一緒にここに来ましょう! 約束だからね!」
「あぁ、わかった。」
しばらく歩くと2メートルくらいの崖が2人の前に立ちはだかる。
「ルースを肩車するから先に登れるか? そしたら上から引き揚げてくれ。」
「いえ、私が先に下になるわ。ギジロウが昇った後に私は飛行魔法で上がるわ。」
「ル、ルースを踏んで大丈夫なのか。」
「もう、今さら貴族扱いしなくても大丈夫よ。さぁいって。」
ルースは壁に手をついてギジロウに肩に乗るように促す。
ギジロウが気にしているのはそこではないが、他に方法もないためルースの言うとおりにして2人で崖を超える。
そのまま進んでいくと、洞窟の出口が見える。
あと数歩で出られると思ったが地面にはぽっかりと穴が空いている。
「ここから、落ちたのか。下が見えないな。」
ギジロウは穴の下の暗闇を覗き込む。
「さっき登った崖の側に脇道があったからそこから出ましょう。」
ギジロウは洞窟を出た後に進む方向を調べるために、方角と距離を計りながら脇道に入る。脇道の先は小さな風穴があり外が見える。
「ようやく出られそうね。崩して外へ出ましょう。」





