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第5話 街道と街灯(4)

「ここに来るのも久しぶりな気がするわ。」

 助手席から降りたルースが軽トラの外から運転席に座るギジロウに呟く。

 ギジロウとルースは石灰の採掘拠点を久しぶりに訪れる。昨夜決まったフローレンスの拠点との役割分担でギジロウ達は必要な原料の採掘を担当することになっている。

 以前、建築した採掘拠点は土を被ったり落ち葉が積もっているが、屋根が崩れ落ちたり壁が亡くなったりはしていない。ルースが臭いを嗅ぐが獣臭さもなない。

「あの、降りても良ろしいでしょうか?」

 軽トラの荷台に載せたギジロウがニーテツで作ったキャンピングハウスからフローレンスが不安そうに声を上げる。

 ギジロウは運転席から降りて軽トラックの荷台から中を覗き降りて良いことを伝える。


「この乗り物すごいですね。ギジロウ様の故郷のものでしょうか?」

 ギジロウはルースの方をチラッと見るとルースは首を振る。

「まあ、そんなとこだ。」

「さぞかし、発展しているのでしょう。いつか、行ってみたいですわ。」

「いつか来られたら良いな。」

 ギジロウの手を借りながらフローレンス達が荷台から降りる。

「俺たちが送れるのはここまでだが、ここからは徒歩で帰れるか?」

「大丈夫です。ありがとうございます。また、荷物が届くのを楽しみにしています。今回決まったことを拠点のみなさんにも伝えますので、レンガ、セメント、ガラスの製造はお任せください。」

 フローレンス達が頭を下げる。

「フローレンス!」

 立ち去ろうとするフローレンスにルースが声をかける。

「一緒にニーテツ奪還まで頑張りましょう!」

「はい、国のために一緒に力を合わせて頑張りましょう。ルース様、ギジロウ様、よろしくお願いします。」

「任せてくれ!」



 フローレンス達が去ったのを見送りギジロウとルースは軽トラに乗り、残り少ない燃料を気にしながら採掘現場の方へと向かう。

「軽トラで移動するとここまであっという間ね。あの白い岩壁が石灰かしら?」

「そうだ。あそこから塊で削り出して運搬する。」

 あっという間に石灰の採掘場所にたどり着き、採掘の準備を始める。

 ギジロウとルースは石灰に近づきツルハシで白い岩壁を崩していく。それを持ってきた籠に崩した石に詰めていく。夕方までかけて、持ってきた3分の2程度の数の籠が石灰で満たされる。

 完全に暗くなる前に2人は麓の採掘拠点に戻り夜を過ごす。そして、翌日も朝から作業を再開し、残りの籠も石灰で満たしていく。

 昼前には全ての籠に石灰が満杯になる。

「予定通り、昼前には採掘が完了したわね。」

 満足げな表情でルースは石灰で満たされた籠を見つめる。

「ここらで切り上げても良いが……」

 ギジロウはすぐに続きを話さず、言葉をためる。

「ガラスの材料や他の材料を探しにもう少し山の奥まで探索しないか?」

「それ、いいわね!」

 ギジロウの提案にルースは満面の笑みで答える。


 軽トラではそれ以上進めないため、必要な荷物を鞄に詰めて徒歩で山道を進む。

「ギジロウもこの世界を歩くのにはなれたかしら?」

「そうだな、明らかに巨大な生物が見つかるのはそろそろ驚かなくなった。そして火を吹く動物がいることにも。」

「オオトカゲね。初めて見たときにはとても驚いていたわね。」

 話ながら歩いていると、ギジロウは体の火照りを感じてくる。

「山登りをしているせいかもしれないが少し暑くないか?」

「確かに少し暑いわね。結構な距離を歩いたからじゃないかしら?」

 2人で暖かさを感じながら歩いているとルースが小川を見つける。

「ギジロウ、小川があるわ。濡れないように気を付けてね。」

「わかった。」

 ギジロウは注意深く足元を見て、水面に顔を出している石から安定していそうなものを飛石に選んで上に乗る。

「ん?」

「どうしたの? ギジロウ? 急に立ち止まって。そこの石は安定していそうだわよ。」

 後ろで待っているルースが石の上で立ち止まるギジロウを心配して思い声をかける。

 ギジロウはそのまま石の上でしゃがみ込み、水に手を入れる。

「暖かい! 温泉があるかも!?」

「え、うそ?!」

 ルースも水に手をいれて暖かさを確かめる。

「ギジロウ、温泉があるなら嬉しいわ。探しに行きましょう!」

 目的が温泉を探しに切り替わる。


 見つけた小川に沿って上流に向かって歩いていくと、湯気か立ち上る支流が本流に注いでいるのを見つける。

「本格的にありそうね。」

 支流に沿って進むと、お湯が涌く泉がいくつもある場所に出る。

「あ、これは素敵な光景ね。」

 少し色っぽい雰囲気でルースがおっとりと話す。

「あぁ、そうだな。」

 あちらこちらから温泉が涌く光景にギジロウも見とれてしまう。



「しかし、昨日から石灰の粉を浴びたり土を被ったりしたから汚れたわね。」

 ルースの銀髪は粉のせいで銀色というよりは白っぽくなっている。顔も少し土で汚れている。

「温泉に浸かっても良いかしら?」

「……はい?」

 ルースの提案に思わずギジロウは疑問符をぶつける。

「いえ、少しさっぱりしたいから、温泉に入りたいななんて。一応、体を拭くために布とかは持ってきていたし周囲には人なんていないから大丈夫だと思うわ。ギジロウも疲れてるでしょ? 暖かいお湯に浸かるのは身体にも良いと思うし。ねえ、どう?」

 ルースはお湯に浸かりたいという気持ちを隠しきれず早口で入浴をギジロウに勧める。

(まあ、確かに暖かいお風呂にゆっくりと浸かるのも良いな。)

 人数が増えたこともあり大量のお湯が沸かせない開拓地では、作ったお風呂は最初の数回、ギジロウ達が入ったくらいで、ほとんど洗い場としての利用しかされていなかった。

 周囲を見渡すと1番大きな泉には大きな岩が真ん中にあり良い感じに仕切られている。

 2人はそれぞれ岩の陰でお湯に浸かることにする。


 ギジロウは服を脱いで足先をお湯につける。

「ちょっと熱いが、それくらいが丁度良い!」

 洗い場などは当然ないし、風呂桶もないため、マナーがなっていないと思いながらも、この状況では仕方ないと自分で納得して温泉に肩まで一気に浸る。

「う、少し傷付いたところに滲みて痛いが……最高だぁ。」

「ギジロウ! 凄い暖かくて気持ちいいわね! 顔や髪も洗えてさっぱりしたわ!」

 大きな岩の向こうからルースの声が聞こえる。

「皆もここに連れてきたいわね!」

「そうだな、温泉施設なんか作れると良いな。」

 ギジロウは森の向こうに隠れているであろう景色を想像しながら良い場所になりそうと考える。

 ギジロウはまったりとした気分で口元までお湯につける。

「お?!」

 ギジロウはその味に思わず声を上げる。

「ど、どうしたの?」

 バシャバシャと音が立ち、ルースが岩の影から頭をひょこり出してギジロウに声をかける。

「ルース、懸念していた塩が見つかったぞ! ここは塩化物泉だ! それもかなり濃い!」

 水面を見ながらギジロウが再び指先についた温泉を舐める。

「え、そうなの…………。確かにしょっぱいわね。」

 ルースから温泉を舐めた感想が返ってくる。

「ル、ルース……。」

 ギジロウは顔を反対側に向ける。

「見、見えそうだから気を付けてな。」

 ルースは顔を赤くして岩陰に戻っていく。

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