第4話 森の中の戦い(5)
「隊長、敵の攻撃魔法が止まりました。」
「向こうも悪手だと気付いたのだろうな。大丈夫だ、おおよその位置の検討はついている。今日は満月で夜でも明るいからよく見ていれば相手の影くらいはわかる。そっちの方向に攻撃摩法を撃ってみろ。」
隊長は暗闇を指差す。攻撃するように指示をされた摩法使いは指差された先をよく目を凝らして見るが何も見えない。
「あの、何も見えませんが、どこらへんを目掛けて撃てばよいでしょうか?」
「そうだな、真正面に見える木から2つ右隣の木を狙え、高さはおまえの目線くらいで良い。」
摩法使いは疑いながらも、指示された位置を狙い攻撃撃法を撃つ。
「見、見つかったわ。」
「もう少し奥に逃げるぞ!」
魔法が通過した辺りでは、ギジロウ達が声あげて逃げていく声があがり、うっすらと影が動く。
「さ、さすがです。」
隊長の的確な指示に従って、その場にいた摩法使い達は見えないギジロウ達を攻撃する。散発的ではあるが、攻撃魔法で応戦されるため木の陰に隠れながら魔法使いたちは攻撃を継続する。
「向こうもこちらが見えているのですかね?」
「違う、違う。敵は魔法の発射点に向かって攻撃しているだけだ。摩法使いは一発撃つたびに木に隠れたり移動したりしろ。その他の兵は摩法使いを守れ。この暗さだといつの間にか敵が近づいているかもしれんぞーー」
隊長は魔法使いの上にあった太い枝に向かって石を投げる。
「い、いたい!」
敵に飛びかかろうとしていたシノに石があたり、兵士達の注目がシノに集まる。シノは反撃することなくそのまま別の木に飛び移りながらギジロウ達の元へ逃げていく。
「不覚でした。おい、摩法使いに敵を近づけさせるな!」
兵士たちは、横だけでなく上にも警戒しながら敵との距離を徐々に詰めていく。
ギジロウ達の撤退速度が隊長の予想に反して遅かったため、隊長達はその間合いをかなり詰めていてた。
お互いの影がはっきりと見えるような距離近づくと、ギジロウ達からの反撃が激しくなる。
「敵の最後の防悪あがきか?」
しかし、ギジロウ達から撃たれる攻撃は明確に隊長達を狙えておらず、一定の間隔で暖幕を張っていた。
「こちらの位置が正確にわかったい内容だな。近づけないためにおおよその位置に打ち込んでいるだけの様だな。 ならこういうのはどうだ。」
隊長は摩法使いから離れた位置で松明を焚くように指示する。
「ギジロウ、敵が松明を付けたわよ。」
ルースが少し離れた位置で松明が光っているのを見つけて、その方向を指差す。
「こんな状況でか? 何が目的なんだ?」
キジロウは敵の意図が読めず困っていた。
「ルース、この辺では降参を示すときに松明を付けるのか?」
「いえ、そんなことはしないわよ。でも、松明は離れているわね。撤退するのに暗くて困っているのかしら?」
(みんなの報告を元に推定した位置とズレているな。推定間違えたか?)
「と、とりあえず、松明の方を追撃するわ!」
ルースは松明の方へ向かって攻撃を開始する。それにつられるように他の魔法使いたちも松明に向かって攻撃魔法を撃つ。
(逃げるだけであれば松明を焚く意味はない。そうすると囮か?)
キジロウはシノとルッチに周囲をよく観察するように伝える。
(お願いだ、ただ撤退しているだけにしてくれ。)
少し、するとルッチが暗闇の中で動く人影を見つける。
「ギジロウさん、私たちが元々狙っていた位置から敵が距離を詰めています。かなり近いです!」
ルッチは先ほどまでルース達が攻撃魔法を放っていた方向に腕を指す。
「やはり囮だ。元の場所に狙いを戻せ!」
「わ、わかったね!」
「仕方ない、取っておきたかったがこれを使うか……。」
ギジロウは爆弾を手に持つ。
「ルース、このさらに奥は獣道があったのか?」
「えぇ、あるわよ。」
「獣道にはブラックボア対策に、ニーテツに行く道にあったような障害物を置いているか?」
「道を塞ぐようにコンクリートブロックが置いてあるはずよ。それに森の中には罠も張ってあるわ。」
「ありがとう。一網打尽にする作戦を準備するからもう少し耐えてくれ。」
「わ、分かったわ。」
「わかった。ルッチ、サ―マリー手伝ってくれ。」
「わかりました。」
ギシロウはルッチとサ―マリーに作戦を話す。
「な、なるほど。それなら一気に敵を倒せるかと思いますが……」
「ギジロウさんはそんなことをして大丈夫なのですか?」
「まあ、俺はみんなと違って戦えないからな、ここは1つ体を張らせてもらうぞ。」
キジロウはルッチとサ―マリーを連れて森の更に奥へと準備に向かう。
「足元に気を付けてね。私たちも罠のある場所まで下がりましょう。」
ルースは優しく声をかけてギジロウを送り出す。
「敵がさらに奥へと逃げたようです。 追いますか?」
隊長は部隊の様子が少し浮足立っているのを感じる。
「あと少しで終わりだな。敵には女がいるらしいぞ、楽しみじゃないか。」
攻撃が散発的になっていることに気付いた兵士が勝利を確信しはじめ、その雰囲気が周囲にも伝搬する。
「この雰囲気だ。ここでやめたら後で何が言われそうだな。数で押し切れるだろ。」
「そうですね。」
(想定よりも粘り強いが、 爆弾を投げてこないところをみると向こうは限界か?)
隊長は少し不安も感じながらも追撃を容認する。 再度、距離を詰めると攻撃が激しさを増してくる。
「まだ攻撃できるのか!」
「いや、最後の抵抗じゃないのか?」
攻撃の激しさは増しても兵士の士気は落ちない 。
(確かに攻撃は激しいが、向こうは当てる気は無いようだな。こちらを近づけさせないのが目的か?)
隊長の顔の横を摩法攻撃力抜けていく。
(先ほどから攻撃魔法の高さが高いな。)
屈めば回避できるため、 隊長はその場に屈んで様子を見る。兵士達も中腰になりながら敵に向かって進んでいく。
(かがむと移動しにくいな。これが狙いか? 俺らの動きが遅くなっている間に逃げる気か?)
隊長がふと目線を少し先に動かすと木の間に紐が張られているのを見つける。隊長は剣先を使って紐を切ると上から木材が落ちてく る。
(視線を上に向けさせた理由はこれか。)
「全員、足元の罠にも気をつけろ! 」
「しかし、攻撃摩法が連発されているのでそこまで注意が回りまーー 」
部下の言葉が途切れたため、隊長がそちらを振り向くと、兵士が木材の下敷きになっていた。
隊長は木材をどかして部下を助ける。
「大丈夫か?お前はいったん下がれ。フラフラだぞ! おい、手伝ってやれ。」
「も、申し訳ありません。」
(攻撃摩法よりも重量物でつぶされるほうが厄介だな。)
「対摩法装備は持ってきているか?」
「近くまでは運んできています。森に入ってからは動きにくいので置いてきましたが。」
「今すぐ取りに行かせろ!」
「わかりました!」
「摩法使いはそのまま相手を釘付けするように応戦しろ! 逃がすなよ!」





