第4話 森の中の戦い(1)
無事にフローレンスを見つけることができたギジロウ達。フローレンスを見つけた夜、安心して団らんしていると隠れ家としていた宿屋がファナスティアル王国軍に急襲される。サ―マリーとフローレンスの魔法で時間を稼いでもらっている間にギジロウは手りゅう弾を作って脱出をもくろむ。
「シノ、今度は屋根裏から爆弾を投げこんで敵を倒せるか?」
シノは静かに頷き再び天井裏に登っていく。
「ギジロウさん、敵は2つ隣の部屋に入りました。」
サーマリーは敵が徐々に近づいてくる状況を報告する。
「よし、俺たちも隣の部屋に移るぞ。フローレンスさんかサーマリーはどちらか先に来てくれ。」
「サーマリー。お先に行ってください。」
「わかりました。私も隣の部屋に移れたら攻撃にすぐに復帰します。」
ギジロウ達はベンが壁に開けた穴から隣の部屋に移る。天井に開いた穴からシノに声をかける。
「シノ、聞こえるか?」
「……聞こえます。なんでしょう。」
「20数えたら敵の部屋に爆弾を投げ込めるか?」
「わかった。」
「いくぞ! 20,19……」
ギジロウは一定のリズムでカウントダウンを開始する。シノもそのリズムに合わせて数を数えていく。10を数えるころには敵がいる隣の部屋の上に移動し、天井を思いっきり蹴飛ばし穴をあける。
「な、なんだ!?」
急に天井裏が破壊され、敵兵たちは慌てて穴の開いた場所に駆け寄ってくる。そんな様子を気にもせずシノは爆弾を手にとる。
(6,5,4ーー。)
シノは躊躇なく爆弾に点火する。
(2,1,今!)
シノはタイミングよく爆弾を部屋の中に投げ込み天井裏に身を引く。
爆発音が響きシノは天井板を通して振動を体に感じる。
ギジロウ達のいる隣の部屋が爆発し、宿内での戦闘が一瞬止まる。
「今だベン! 攻撃摩法の発射点に向かって突っ込め!」
「任せろ!」
ベンは勢いよく部屋から飛び出し、敵の摩法使いとの間合いを一気に詰める。
「あ、しまった。」
意表を突かれ対応が遅れた敵はベンに向かって攻撃摩法を撃とうとするが、構えるよりも速くベンが剣で胸を突く。
「オラァァ! 兄貴の道を開けんかい。」
胸を突かれた魔法使いが床に倒れ込むと、もう1人の魔法使いが攻撃魔法の構えを取る。2人目に気づいたベンは魔法使いの持っていた杖を蹴る。杖が飛ばされてしまった魔法使いは反対の手で短剣を手に取りベンを目掛けて短剣を振るう。
「そんな短剣だと届かないだろ!」
ベンが魔法使い目掛けて剣を振るが、剣は空気を斬る。
「くそっ!」
魔法使いはニヤッと笑う。
魔法使いが後ろにさがると、護衛の剣士が現れベンに思いっきり斬りかかる。
(まじか! やられる。)
次の瞬間、攻撃魔法が振り上げられた剣に向かって放たれる。
剣士は攻撃魔法に気を取られて一瞬攻撃が遅れる。そのわずかな時間でベンは態勢を整え剣士の腹を蹴り飛ばす。バランスを崩した剣士は後ろにいた摩法使いをともども階段の下に落ちて動かなくなる。
「ベン、大丈夫か?」
ギジロウはベンに近づき怪我の有無を確認する。
「大丈夫! サ―マリーのおかげで何とか怪我もせずに倒せたぜ。」
ベンはサ―マリーに笑顔を見せる。
外からは爆発音が聞こえる。
「シノも戦ってくれているようだな。急いで外に出よう。」
ギジロウ達は急いで階段を降りる。
「玄関で敵がまち構えているかもしれないので慎重に出ましょう。」
玄関ホールに出る前にルッチが警告する。
「わかった。」
階段を降りて玄階へとつながる、廊下の陰から様子を見る。
「あれ? なんか全員倒れてる?」
爆弾を投げ込んだ直後に話は戻る。
シノは天井裏から顔を出し、爆発後の部屋の様子を確認する。そこには2人の兵士が倒れていた。動かないことを確認しシノは部屋に降りる。
「気絶しているだけですかね。しかし、こんな小さな武器で対処できてしまうなんて、恐ろしい……。」
シノは爆弾を作れてしまうファナスティアル王国に恐怖を感じるとともに爆弾が手元にあることに安心を感じる。
部屋の外からギジロウ達が戦う音がする。
「わたしも合流するか……。」
爆発によって開いた窓から外の兵士の会話が聞こえてくる。
「なんだ、今の爆発は?」
「わからん、追い詰められて自決したのではないか?」
「情況確認のために突入するぞ。」
兵士たちが宿の入口前に集まり始める。
「まずい…………。このままだとギシロウさん達が鉢合わせしてしまう。
シノは爆弾を手に取り火をつける。
「えい!」
宿の入口に集まった兵士達に向かって投げられた爆弾は兵士達のまん中で爆発する。驚いた兵たちは逆に爆弾から逃げるため傷付いた仲間を置いて急いで宿の中に入る。
「中に入られた……急がないと。」
シノはそのまま敵兵の真後ろに飛び降りる。
「なっ」
すぐに短剣で切りつけ宿の入口に向かって走る。周囲にいた兵士もシノを捕えるために弓を放ったり、攻撃摩法を撃ったりするがシノは身軽に避けつつ爆弾に火をつけて兵士に向かって投げる。」
遮蔽するものが何もない場所で爆弾が爆発して、その圧力差でルッチも息苦しさを感じる。
(こんなに離れていても、うるさいし衝撃がすごいし、石が飛んできて危ない。使う時は身を隠すようにしよう。)
息苦しさを感じながらも必死に宿の入口の前まで走り、点火した爆弾を投げ入れ入口から離れる。爆弾に気付いた兵士は慌てて再び宿の外に出るが、影響の範囲外に出るよりも早く爆弾は爆発する。
「よし、いい感じ。」
「捕まえろー!」
まだ倒していない兵士に追いかけられたシノは路地に入り追手を撒く。
ギジロウ達は動く敵兵のいない誰もいない玄関ホールを抜けて外に出る。外には兵士が1人で立っていたのでベンが倒す。
「兄貴、やったぞ……いつの間にそこにいたんだ?」
そう言われたギジロウは右を見るというかいつの間にかシノが横に立っていた。
「うわっ!びっくりした。」
「外にいた兵士は爆弾で大体倒した。」
「よくやったなシノ!」
ギシロウはススで顔が少し汚れたシノの頭をなでる。
「ギジロウさん! 馬がつながれたままです。すぐに逃げましょう!」
すぐに馬をつないでいる紐を切り、馬にまたがる。
「応援の部隊が追ってきている。遠回りだが、逆方向の道からいくぞ。」
ベンの馬を筆頭に追手から逃げる。





