第3話 ナターシャの仲間たち(4)
昼下がり、ギジロウ達が前進基地の整備している間にニーテツの様子を偵察していたシノが帰ってくる。
「シノ、ニーテツの様子はどうだった?」
「農業地区と中央地区の間の移動に制限がある。中央地区との道の出入り口には兵士が立っていて通る人を監視している。荷物の検分はしていない様子。農業地区を見回る兵士は見かけなかった。」
「そうか、それならよく周囲を警戒していればば農業地区の中は比較的自由に歩けそうか。他に報告はあるか?」
「中央地区のほうは全周が腰くらい高さの壁に囲まれていた。魔獣対策だと思う。全然、乗り越えられるけど、目立つからしなかった。中央地区の方は見回っている兵士は少ないけどいた。」
「中央地区の壁を乗り越えるのは見つかる危険性があるな。」
シノの偵察情報をもとにギジロウ達はフローレンス捜索の作戦を立てる。
「シノの情報的には、農業地区から中央地区へ行く荷車は検分されていないようですし、その中に隠れていればよいのではないですかね。」
「しかし、そんな大きな荷車引いていたら流石に怪しまれないか?」
転移先の世界の常識を知らないギジロウは慎重に質問する。
「それなら、問題ないと思います。」
サ―マリーと一緒に来た男性が説明する。
「この時期は、収穫物の最盛期ですから荷物が多くても問題ありません。荷物が汚れないように幌がついていても怪しまれないかと。」
「どうして、分かるのだ?」
「私は農業地区の出身なので。知り合いもまだ住んでいると思いますので、中央地区へ入るための荷車の手配もしてきましょうか?」
ギジロウは農業地区出身の男性に荷車の手配をお願いする。
男性が知り合いに、農作物出荷の馬車に隠れさせてほしいと交渉したところ、相手からも条件を持ち掛けらてくる。
「ギジロウ様、子供たちを引き取ってくれるなら、協力するとのことです。」
「子供たち?」
「えぇ、農業地区に残っている子供たちを連れ帰って安全な場所で育ててほしいと。」
「幼いのか?」
「乳飲み子というわけではないですが、1番幼い子は4歳だそうです。」
「みんな、育てられると思うか?」
判断に困ったギジロウは周囲に意見を求める。
「大丈夫ですよ、私の兄弟もそんな年齢でしたし。」
ルッチが受け入れることを後押する。
「わかった、その要求を受け入れよう。」
移動手段が決まったら中央地区内の捜索隊の人選をする。ギジロウが行くことは満場一致で決まったため、ギジロウが連れていくメンバーにルッチ、ベン、シノ、サ―マリーを選ぶ。
「残った私たちは前進基地の整備していれば良いのかしら? 私も行きたいのだけど。」
ルースは少し不服そうにギジロウに説明を求める。
「ルース様とギジロウ様のおふたりが同時に何かあっては、私たちは頼る人がいなくなってしまいます。」
ルッチがギジロウとルースが別れる理由を説明する。
「ルッチの説明通りだ。それに、ルースには俺たちに何かあった時の支援を頼みたい。ルースは最後の砦だ。」
「そ、そうなのね。確かにみんなでニーテツに行って全滅なんてのは避ける必要があるわね。ギジロウ達がフローレンスを見つけて安心して戻ってこられる場所を守っておくわ。ギジロウも元気に帰ってくるのよ。」
「あぁ、任せろ!」
次の出荷の日、事前に打ち合わせた通り農業地区の住人の馬車に乗り込む。
「よろしく頼む。」
「はい、任せてください。見つからないと思いますが、念のため木箱を高く積んでおきます。皆さんはその奥に身を潜めてください。」
馬車の持ち主だけでなく、協力を申し出てくれた住民も手伝って、ギジロウ達を木箱の奥に隠す。ギジロウ達も念のため麻布を被る。
ギジロウ達を載せた馬車はゆっくりと動き出す。少し進んだところで一旦停止し、協力者が誰かと話し始める。
「おまえさんか、今日も食料の供給か?」
「えぇ、そうですよ。いつも通り中央地区の商店街へ行きます。」
「そうか。馬車なんか持ち出して珍しいな。今日は何かあったのか?」
「今日は収穫量が多くてですね。」
守衛は幌の中を覗き込む。
「いやぁ、これは満載だな。」
自分の背丈よりも高く積み上げられた木箱をみて守衛は驚く。
「もう、秋ですし。街の兵士さん達もお腹いっぱい食べられるようにする必要がありますからね。」
「そうかそうか。しっかりと供給しろよ。俺たちが飢死しないようにな。」
会話が終わると、馬車は再び動き出す。
「無事に通過できたみたいですね。」
ルッチがほっと肩をおろす。
馬車は無事に目的の商店街の裏手につきギジロウ達も馬車から降りる。
「ありがとう。帰りもここに来ればよいか?」
「すいませんが、帰りの協力はできません。」
「な、なぜ! まさか、お前!」
「中央地区から出る馬車は荷物の点検が厳しいのです。場合によっては木箱も開けられます。ですから皆さんを隠すことはできないのです。私にできるのはここまでです。」
「そ、そうか、それなら仕方ないな。ここまでありがとうな。あなたとの約束については農業地区にいる仲間が引き継いでいるから安心してほしい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
ギジロウ達も荷下ろしを手伝い馬車を見送る。
「しかし、困りましたね。農業地区に戻る手段がないです。」
ルースが顎に手を当てて考え込む。
「1回だけなら塀を乗り越えることも可能。」
「確かに、シノの言うとおり1回だけだな。多分見つかるから次来るときは見張りが厳しくなるな。そうすると中央地区の中で泊まる場所を探すしかないな。」
「兄貴、いつも通り野営するか? 鉱山地区の方の人がいない場所とか。」
「まあ、最悪それでも良いが鉱山地区は少し遠かったよな。できれば町中に拠点が欲しいところではある。さすがに町中で野営していたら怪しまれるな。」
「そもそも、野営道具を持ってきていないから寒い。」
季節は秋にかかっているため、昼間は暖かいが夜は肌寒く感じる。
「それなら、私に案があります。少し、別行動します。夕方にまたここに集合でよいですか。」
「良い当てがあるならありがたい。任せたぞ。」





