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第1話 助けを求める少女(2)

 男性は少女に後ろから軽トラで近づく。音と光で軽トラに気付いた少女は驚きの表情をみせ、慌てて道の脇によけようとするが転んでしまい、そのまま道の真ん中を開けるために寝返りを打つように横に転がっていく。

 男性は少女のやや後ろに軽トラを停車させて車から降りて話しかける。

「あの、大丈夫ですか?」

「あわわわわぁぁ……。あ、あなたはぁ?」

 少女は物凄くパニックになっているため、男性はゆっくりともう1度声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

「ひえぇ……。殺さないでぇぇ!」

 半泣きになりながら必死にお願いする。

「ごめん。害意はない。話を聞いてほしい。」

 しかし、少女は恐怖に引きつった表情で命乞いするだけで話が進まない。落ち着きを取り戻してもらうため、男性がどうしようかと考えていると荷物の中に水のボトルがあったことを思い出す。

「少し待ってて。」

 車の荷台から水を取り出しキャップを開けて少女に手渡す。

「飲めるか? 水だから安心してほしい。」

 最初は様子を伺っていた少女だが、男性が何度かペットボトルをくいっと差し出すと、少女は恐る恐るペットボトルを手に取り少し観察した後に飲み始めた。

「はぁぁぁ。どうもありがとう。」

 少女は落ちつきを取り戻す。

 何を話そうかと男性が悩んでいると拾ったカバンのことを思い出して、車からカバンを持ってきて少女に見せる。

「あ! 私の荷物! 拾ってくれたの!」

「ここから少し戻ったところで見つけたよ。」

 来た道を指差しながらカバンを少女に渡す。

「返してくれるの? ありがとう!」

 少女はとても嬉しそうにカバンを受け取り中身の確認を始める。途中途中で「よかったぁ」「きれいに残っていてうれしぃ」など喜びの声をあげる。その様子を男性は微笑ましそうな表情で眺める。

「そんなに、喜んでくれるのなら良かった。」

 確認を終えると少女は男性の方を振り向きお礼を言う。

「カバンを持ってきてくれたありがとう。あらためてお礼を言うわ。私はルースというわ。 あなたの名前は何かしら?」

「俺はギジロウという名前だ。」

「変わった名前ね。どこから来たの? それにあなたが乗っていたあれは何かしら? 車輪らしいものがあるから恐らく車よね? 動物が引いていないようだけど、どのように動いているのかしら? あなたの服装も不思議ね? 町民の服のようだけど色が鮮やかだしかなり丈夫そうだわ。」

 ルースはギジロウの服を少しつまみながら矢継ぎ早に質問をする。

「なんというか、気付いたらこのここに居た。一体ここはどこなのだ?」

 状況が全くつかめていないギジロウは質問に対して質問で返してしまう。

「もしかして、違う場所それも別世界から来たりした?」

「たぶん、そうだと思う。なぜ、そう思う?」

「わたし、自宅で魔法陣を展開していたの。」

「自宅というのは、この道を戻った場所にあった焼けた小屋か?」

「燃え落ちてしまっていたのね。気づいたらそこに居たということかしら?」

「そんな感じだ。」

「魔法が完了した? 私は発動途中で逃げてしまったし……そんなことあるのかしら? そもそも私が発動していたのは魔獣を引き寄せる魔法だから、人間を呼び寄せるようなことはできないし……。それも異世界から人を呼ぶなんて、うわさには聞いたことあったけどおとぎ話の話よね……。」

 ルースはギジロウのことを置き去りにしてぶつぶつと独り言をつぶやきながら思考を整理する。しかし、理由が思いつかないため、頭を掻きむしりながらギジロウの方を見上げる。

「ありえない……。でも実際にあなたはここにいる。なぜなのかしら?」

「俺にはさっぱり。」

 ギジロウからの返答にルースは引き続き頭を悩ませ続ける。

 しばらく、悩みそうな様子のため先にギジロウが気になったことをルースに確認する。

「そういえば、ルースは誰かに追いかけられていたか?」

「そうね。追いかけられていたわ。追手が来ているならすぐに逃げましょう! い、痛い!」

 ルースは立ち上がろうとしたが、足を痛めておりうまく立ち上がれなかった。ギジロウが手を貸して何とか立ち上がる。

「初対面でいきなり申し訳ないけど、一緒に逃げてくれないかしら。」

「それは構わないさ。車に乗ってくれ。」

 ギジロウはルースを支えて助手席に乗せる。周囲を見渡して忘れ物がないことを確認すると車を出発させる。

「動物なし動くなんて……本当に別世界の乗り物だわ! 何というの名前なのかしら?」

「軽トラと呼ばれていた荷物を運ぶための車だ。それで、これからどこに向かえばよい?」

「ニーテツという都市に向かってほしいわ。ニーテツの首長である総督は知り合いだから彼に助けを求めたいと思うわぁぁぁ。」

 軽トラが石に乗り上げ大きく揺れる。

「おっと、すまない。このまま、道に沿って進めば問題はないか。」

「すごい走行性能ね。いったん、途中の村によって情報取集をしましょう。」

「わかった、道案内はよろしく。」


 ルースの指示に従って、狭い道から広い道に入り村を目指して進む。村が近づくとルースは脇道に入って村の裏手に回るように指示する。

「車で直接村に行くのはだめなのか?」

「あなたはこの周辺の知識や技術をはるかに超越した存在よ。そんなことが知られたらいろいろな組織から狙われるわよ。村は混乱しているだろうから、どこで誰が見ているのかわからないわ。だから、自分で自分を守れない間は正体を秘密にしたほうが良いわ。」

「助言ありがとう。それなら見つからないように移動するか。」

 車を運転しながらギジロウはルースから転移後の世界について教えてもらう。

「この世界には魔法があるのか。前の世界にはなかった技術だな。それに、獣人、エルフなどがいるのか。」

「そうよ、各人種で固まって生活したり、複数の人種でまとまって国を作ったりしているわ。この辺りは亜人王国連邦の獣人王国の支配下ね。」

「なるほど。町を襲っていた集団はなんだ?」

「あれは、連邦が戦争中のファナスティアル王国の兵士よ。」

(戦時下か。きな臭い世界に来てしまったな。)


 ある程度村に近づいたところでルースが車を停めるように指示する。

「この畑のあたりなら目立たないかしらね。私は村の中心部に行って情報を集めてくるわ。あなたは目立つから待っていてちょうだい。」

「1人で行くのか? 足は大丈夫なのか?」

「何とか歩けるくらいには回復したわ。」

「わかった、行ってらっしゃい。」


 村はどこか落ち着かない様子で、多くの人や馬車で溢れている。その喧騒をかき分けながらルースは村の中心部にある商店を訪れる。

「こんにちは。営業しているかしら。」

「こんな時にお客か。いや、こんな時だからか。」

「何かあったのかしら?」

「知らないのか?東の町が占領されたそうだ。東の町はニーテツへ続く重要な町だったから、次はニーテツに攻めてくるという噂だ。この村は通り道だから、みんな守りが固いニーテツの方へ逃げているのさ。」

 店主が視線を向けた先には多くの馬車が止まっている。

「そうなのね。情報ありがとう。それはそうと、男性用の上着を探しているの。」

「そうか、これなんかどうだ。」

 店主は一着のコートを棚から取り出す。

「問題ないわ。それはいただくわ。」

 いくつかの店で情報収集と買い物を済ませたらルースは軽トラに急いで戻る。


 ルースが戻るころにはお昼前になっており2人で食事にする。ギジロウは荷物からトマトを取りだして洗いルースに渡す。ルースは村で買ってきた焦げたような塊をギジロウに渡す。

「携帯食料よ。一緒に食べましょう。」

 そう言ってルースは携帯食料をかじる。ギジロウはそれが乾パンみたいなものであると理解して口にする。

「想定はしていたが……、味気ないうえに物凄くパサパサする食べ物だ。」

「口に合わなかったかしら。でもこのあたり地域だと携帯食料はそういうものなのよ。」

 口直しのためにギジロウはトマトを口にする。少し固いがおいしい。ルースもギジロウの食べ方をまねてトマトを口にする。

「何これおいしいわ。今まで食べた野菜よりもはるかにおいしい。果物みたいよ。」

 ルースは物凄くおいしそうな表情をして感想をギジロウに伝える。

「これ、あとどれくらいあるの?」

「残りはあと5つだな。」

「これって、ここから増やせたりする?」

「工夫すれば増やせると思うよ。」

「なら、落ち着いたら栽培に挑戦したいわ!」

「わかった。一部は食べずにとっておくか。」


 食事後、ルースが村で聞いた話をギジロウに説明する。ニーテツも危険であるが他に行く当てもないため行先に変更はない。そしてルースは買ってきた上着をギジロウに渡す。

「これをあなたにあげるわ。旅人用の上着よ。寒そうだし目立たないようにするためにも是非着ていてちょうだい。」


 お礼を言い、ギジロウは上着に袖を通す。

「なんとなく、冒険者らしい雰囲気で異世界に着た実感がわいてきたな。」

「冒険者らしい雰囲気というのはわからないけれど、似合っているじゃない。」

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