第2話 未踏の森へ(6)
「これは、正直凄いな。シー、エイダどう思う。」
ギジロウにアン際された場所の開拓具合をみて驚いたベンは、隣にいたベンと同じくらいの年齢の少年シーと少女エイダにも感想を求める。
「僕は一旦ここに住まわせてもらうのもよいと思うよ。」
「私も少しの間、休ませてもらった方が良いと思う。」
「2人ともそう思うか。」
ベンはニーテツを脱出する際に、助けてくれた老人と交わした約束を思い出しながらどうするか考える。
「ルース様を探して、追われていることを伝えてほしいのです!」
(あの、おじいさんに助けてもらった恩に報いるために、早く行動をしたいんだよな。)
「マイヤー兄さんはどう思う。」
「私はここに居てギジロウさん指示に従うのが良いかと。ギジロウさんの隣にいる女性はーー」
「おーい、肉を持ってきたがこれで足りるか?」
話の途中で、ギジロウが干し肉の入った木箱を持ってくる。
「あ、ありがとうございます。」
ベンはギジロウから箱を受け取り中を確認する。
「これは、ブラックボアの肉か?」
「そうだが、嫌いだったか。これ以外だとウサギの肉しかないが。」
「いや、ブラックボアの肉はおいしいからうれしい。」
ベンは受け取った木箱をシーに渡す。受け取ったシーはエイダと一緒に中を見て、久しぶりのお肉に感動して少しよだれを垂らす。
「あの、ギジロウ! 少しの間ここで休ませてもらえるか? 俺たち、ニーテツから逃げてきてずっと森の中を彷徨っていたんだ。」
少しギジロウは考え込んだ後、話し始める。
「俺らも生活に余裕があるわけではないから作業は手伝ってもらうけどそれでも良いか?」
(まあ、農作業などを手伝う感じだろうな。でも、みんなで不安におびえながら森の中を彷徨いながらルース様を探すよりは、ここを拠点に探していく方が良いだろう。)
「あぁ、構わない。よろしく頼む。」
ベン達は食堂に案内されそこで寝るように指示される。久しぶりにしっかりとした屋根の下で眠れることに物凄く安心したベン達は疲れが急に湧き出てきてすぐ眠ってしまった。
翌日、ギジロウとルッチがベン達に農作業の指示を出しに食堂にやってくる。
「えっと、昨日はベンの名前だけ聞いていて他の人の名前を聞いていないから教えてくれないか?」
「そうだな、こっちはシー、こっちのエイダだ。俺たちはニーテツで出会った仲良し3人組だ。」
ベンがシーとエイダのことを紹介する。
「私たちは4人兄弟姉妹で、私が長男のレン、こっちが長女のアイナ、次男のロン、次女のカミラです。私たちの家の名前はマイヤーです。」
「ありがとう。早速だが作業の方を手伝ってほしい。ベン達の方の指示は俺が、マイヤー家の方はルッチが出すよ。」
「あ、あのもう2人女性がいたと思いますが、その方たちは?」
人数が足りないことを不思議に思ったレンが質問をする。
「罠の見回りに行っている、後で紹介するよ。」
少ししたら別れて作業を始める。
「こっちの野菜の方を収穫してほしい、付け根はそんなに固くないから手でもいでくれ。」
「ギジロウさん、この野菜は何ですか?」
「これは、トマトだな。少し食べてみるか?」
「あ、ありがとうございます。」
「シーもしっかりとと頼むな。今日のご飯になるから。」
ギジロウがエイダと仲良くする姿にベンは内心イラっとしていた。
(あぁ、クソ。なんで出会ってすぐの奴にみんな従うんだよ。ここまで率いてきたのは俺だろ!)
「ちょっと、ギジロウ、シーとエイダは俺が率いてきたのだから指示は俺を通してくれないと困る!」
「ちょっと、ベンどうしたのよ。」
ベンが反抗的な態度を取り始めたことにシーとエイダが驚いてなだめる。
「そうか、それはすまない。」
大声を聞いてルッチが駆けつけてくる。
「ギジロウさんどうしましたか!」
駆け寄ってきたルッチにギジロウはひっそりと話す。
「なんか、ベンを飛ばしてシーとエイダに指示をだしたらへそを曲げちゃって。」
「あぁ、なんかリーダ格はベンのようでしたからね。きっとは配下を取られたと思ったんじゃないですか?」
「ベン、ギジロウさんは今いる中で最も優秀な人物です。その指示が聞けないのですか。」
ルッチはかなり圧を掛けるようにベンににっこりと話す。
「う、そ、それは。」
ベンはルッチの圧力を受けながらも反抗的な態度をとる。
(この何でもそつなくそこそこできそうな雰囲気がむかつくな。そうだ、こいつを配下において俺のルース様探しの手伝わせればよいのではないか?)
「そ、そうだ! ギジロウ! 俺と勝負しろ!」
「……はい?」
「ほう、ギジロウさんと勝負とはいい度胸ですね!それで何で勝負をするんですか?」
ルッチとベンがギジロウを置き去りしてバチバチと睨みあう。お互いにヘタな勝負の内容を言うと不利になると感じてにらみ合いが続く。
そんな状況の中、エイダがポーチを落としたことに気付く。
「そういえば、ポーチが無い! きっと、最後にブラックボアと戦った場所で落としたんだわ。」
「それだ! エイダのポーチを見つける勝負だ! エイダのポーチを見つけて、持って帰ってこれた方が勝ちだ、お前が勝ったらシーやエイダと一緒にお前の指示を聞いて動いてやる。ただし、俺が勝ったら俺たちの目的のために俺たちは、この場所を拠点に勝手に行動することを認めろよ!」
少しするとルースとカイナが罠の見回りから帰ってきて状況を飲み込む。
「ギジロウ、こんな勝負してまでベンに言うこと聞かせたい?」
「まぁ、人材は必要だと思うから、仲間になってくれるなら嬉しいと思うよ。」
ギジロウは森の入り口付近で待つベンの元に歩いていく。
「勝負はエイダのポーチをここに持って帰ってきてエイダに渡した方が勝ちでよいのか?」
「あぁ、いいぞ。」
審判はマイヤー兄弟が行うことになった。
「それでは、ギジロウさんとベン隊長のポーチ探し競争を始めます。」
「お互い気を付けて頑張ろうな。」
ギジロウは握手を持てめてベンに手を差し出すがベンはそれを無視する。
「それでは、始め!」
ロンの合図と共にベンが勢いよく森の中に走っていく。
「あの、ベンが無理言って申し訳ありません。」
エイダが申し訳なさそうにルースに話しかける。
「あなたのリーダは熱い人ね。」
「悪い人間ではないのですが、ちょっと熱くなってしまうところがありますので。」
「じゃあ、俺も行ってくるな。拠点の方は任せたなルース。」
ギジロウも森に向かっていく。
「え、あなたがルース様なの?」
「あいつには、エイダのポーチの見た目を教えなかったし、先にたどり着いても探すのは苦労するだろうな。戦いは競争の開始前から始まっているのさ。」
ベンは来た道を思い出しながら森を進んでいく。ベンはニーテツでは鉱山で働いており一度通った道を覚えるが非常に得意だった。
「坑道だと階層があったけど、森の中は階層が1つだけみたいなものだから坑道より全然楽だな。」
森の中を歩くのは坑道とは違うがベンにとってはそれらも些細な問題だった。木々で覆われた森は薄暗いが坑道内よりは全然明るいし、水に阻まれても慎重に水面から顔を出している石を選んで渡っていく。
あと少しで目的地に到着するというところでベンが後ろを振り返ると、遠くからギジロウが来ているのが見える。
「もう、追いついたのか?見た目に反して足が速いし、体力があるな。」
ベンは足を止めよく観察するとギジロウが大きく肩を揺らしながら歩いていた。
「いや、気のせいだったか。」
ベンは目的地に到着するとすぐにエイダのポーチを見つける。
「よし、これで目的は達成したな。あとは持ち帰るだけだな。」
すると目の前の茂みの奥が不自然に揺れオオトカゲが飛び出してくる。ベンは一瞬びっくりしたが、たいして強くない魔物が出てきたので一安心する。オオトカゲはベンの横を過ぎて逃げて行ったため安心して槍を降ろすと、再び茂みが揺れ巨大な蛇が飛び出してきた。
「こ、こいつは前に出会った時には倒せなかったサトメグリじゃないか!」
ベンは大慌てで逃げ出す。
ギジロウが目的地に向かっていると逆方向からベンがサトメグリに追いかけられながら走ってくる。ギジロウまであと数メートルというところでベンは躓いて転んでしまう。
「大丈夫か! ベン!」
ギジロウはサトメグリの脇の茂みに石を投げて注意を向け、その間にベンを引き起こす。
「とりあえず! 逃げるぞ。」
ギジロウはベンが落とした荷物を拾い逃げる。
(やはり、追いかけてくるな。)
「ベン、サトメグリは何か追いかけていなかったか?」
「……そういえば、直前にオオトカゲが飛び出してきた。」
「オオトカゲか、背が低いから茂みの中だと見つからないな。そうだ。」
ギジロウが道を外れて崖の方に向かっていく。
「あの盛り上がってる草むらに向かって思いっきり、槍を投げろ!」
ベンは言われるがままにギジロウが指さす草の山に槍を投げる。すると、低いうなり声が聞こえブラックボアが出てくる。鼻息が荒く興奮している様子が遠くからでもわかる。
ギジロウはベンを茂みに陰に引っ張り隠れる。その後、2人で恐る恐る茂みの向こうを覗くとギジロウ達を追いかけてきたサトメグリとブラックボアが対峙していた。
「今のうちに逃げるぞ。」
「なんか、一緒に帰ってきたぞ。」
レンがギジロウとベンが一緒に帰ってくる姿を見つける。その声に反応してみんなが集まってくる。
「すごい泥だらけだけど何があったのかしら?」
「サトメグリに出会った。」
「……よく生きて帰ってきたわね。」
「はい、これどうぞ。」
ギジロウがエイダにポーチを手渡す。
「あ、ありがとうございます。」
「勝者! ギジロウ様!」
ロンの声を聞いてその様子を見て、ベンが慌てる。
「そ、それは先に俺が見つけたんだぞ!」
「何を言っているんだ? 勝負はエイダにポーチを渡した人が勝ちだろ?」
「なっ……!」
ベンはエイダやシーを見るが2人も首を縦に振っている。
「ということで、今日からよろしくな!」
「わ、分かったよ。勝負は勝負だからな。それに今回は助けてもらったし。だけど、俺の目的の少しは手伝ってくれよ。」
「それなのだけど、ベン。」
エイダが悔しそうに意気込むベンを見て少しきまずそうに声をかける。
「ここに居る銀髪の女性が、私たちが探すように頼まれたルース様だそうよ。」
「え!」
ベンはレンの方を見る。
「この方はルース様で間違いないです。」
「何だったんだ! この勝負はー!」