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第2話 未踏の森へ(3)

 ギジロウにとっては異世界ではあるが、ゲームではないため討伐した魔獣が霧のように消えることは当然ない。

「ルースたちは討伐した後の魔獣の処理はどうしているのだ?」

「食べられる魔獣なら当然食べるわよ。」

 ルースの言葉を補足するようにルッチが説明を重ねる。

「ブラックボアは食べられます。ルース様、ギジロウ様、食べるということでよいでしょうか? 後、毛皮については服に加工できれば良いかと思います。」

「あら、服が作れるのはよいわね。毛皮の加工については詳しそうなルッチに任せるわ。」

 使い道が決まったら、早速みんなで解体に取り掛かる。

「2.5メートル強ある巨体だが、体重についてはどれくらいあるんだ。」

「そうですね。直近でニーテツに襲来してきたブラックボアは1600ブレドくらいの重さがあったと記憶しています。」

 カイナの口からギジロウに馴染みのない単位が登場した。

(長さに次いでやはり重さも違う単位系か。)

「ルース、1ブレドってどれくらいの重さなんだ。」

「1ブレドは1回の食事で提供されるパンの重さよ。連邦ブレドと北部ブレドがあるのだけど、この辺だと北部ブレドだと思うわ。北部ブレドの方が若干重いわね。10分の1ブレドが1ブロンで、10ブレドが1ブレダで……。」

「まった、まった、はじめの説明から既にイメージがつかない。」

(1回の食事で出てくるパンの重さなんてイメージがつかないぞ。)

「ルース、そのパンと言うのは総督の館で毎食出てきたあのパン1つのことか。」

「少し違うわね。パンが2つ出てきたと思うけれど、あのパン2つで1ブレドなのよ。1ブレドでパンを作ると大き過ぎるから普通はその半分や4分の1のパンが並ぶのよ。」

「なるほど、食べていたあのパンの重さがハーフブレドなのね……とはならないぞ。全くわからん。」

 ギジロウは重さを感覚で測れないため、あきらめて食べた満足感からイメージする。

「満足度的には4枚切り食パンを2枚食べたよりも少し多い感じがしたな。」

 魔導書で調べてみると4枚切り食パンの重さは大体100グラムくらいと出てくる。つまり2枚だと200グラムくらい。それよりも少し重いとして、1ブレドは220グラムくらいである。

「そうすると、ニーテツに襲撃してきたブラックボアは368キログラムといったところか」

「なんとなく、想像はできたかしら。」

「とても重いということだけはわかった。」

「それは結構。」

「それでカイナ。過去にニーテツを襲撃したブラックボアと比べて、今回倒してブラックボアは大きいのか?」

「いえ、少し小さいですね。」

(少しがどれくらいかわからないが、350キログラムくらいはありそうだな。)

「しばらく肉には困りそうにないな。味の方はどうなんだ。」

「少し臭みがありますがとても美味しいですよ。内臓も食べられたと思います。」

 ルッチとカイナがものすごく食べたそうな目でブラックボアの亡骸を見つめる。

「ブラックボアの内蔵は薬になるかしら。」

「ごめんなさいルース様。それは、わかりません。」

「そういえばルッチが、毛皮が欲しいと言っていたがそんなにいい毛皮なのか?」

「ニーテツの特有の魔獣ですから高値で取引されていましたよ。希少性も高いうえに、寒い未踏の森で生きている獣ですからすごい暖かいです。今回は春のブラックボアの毛皮なので、冬毛に比べると保温性は少し落ちますが手触りがとても良いのですよ。」


 利用方法が決まったので、早速解体に取り掛かる。

「ギジロウは生き物の解体は苦手よね。私たちがやるわ。」

「あぁ、お願いする。獣の解体は苦手だよ。」

 ギジロウは拠点に来た直後にウサギの解体をしたがかわいそうで見ていられなかった。

(この世界の住人は現代日本よりもかなり生き物の生と死が身近でたくましな。)

 生き物の解体は女性3人組に任せてギジロウは解体した肉を燻す準備をすることにした。


 その夜、ルッチはブラックボアの毛皮をはぐことに失敗し、落ち込んでいたいた。3人が励ますがルッチは逆にさらに申し訳なさ感じる。

「だ、大丈夫よ、ルッチ。多私がやったらたぶん糸くずになっていたわ。」

 ルースは大げさにフォローする。

(どう考えても糸くずにはならんだろ。)

(ルース様、大げさすぎます。)

「すいません。少し1人にしてください。」

「あぁ、ちょっと!」

 ルッチは毛皮を乾かして燻している焚火の側に1人で行く。

 残されたルースはギジロウの方を向いてゆっくりと話す。

「ギジロォォォ! ルッチとも仲良くなりたかったのよね。よろしく!」

「はぁ、まあルースの言うとおり仲良くなりたかったし、ちょっと話してくるよ。」


 少し時間を空けた後、ギジロウはルッチの側に行き、話しかける。

「新しい灯りを作ったぞ、ブラックボアの油を使ったランプだ。これで手元は少し明るいだろ。」

「あ、ありがとうございます。」

 ルッチは俯いたままお礼を言う。何か言いたそうな雰囲気をまとっているが黙っており、沈黙の時間が流れる。それに耐えきれなくなったギジロウは一旦洞窟内に戻ろうとする。

「気をつけてな、俺は洞窟内に戻るよ。」

「あの、ギジロウ様。」

「どうした?」

「ギジロウ様はなんでそんなにもすべてをそつなくこなせるのですか。ギジロウ様はやると言ったことはしっかりとやり遂げるし、失敗もしない。それに比べて私は……。」

 泣きそうな声でギジロウに問いかける。

「今回のブラックボアの毛皮を剝ぐのは、仕立屋の娘の私に期待してくれたのに、その期待に応えられなかった。」

「ルッチ、俺の技術だって一朝一夕で身についたものじゃない。俺だって昔は失敗した。その度に人に迷惑をかけたよ。」

 ギジロウは元居た世界で活線状態の設備にテスターをあてて短絡させ設備から煙が上がったときのことを思い出しながら話す。

「俺と比べて君の技術が劣っているなんてことはない。ただ、挑戦したことの試行回数が少ないだけだ。1回で上手にできたらそれはかっこいいよ。でも、現実には初挑戦で成功するなんて早々できない。だから失敗を恐れずに挑戦したルッチをすごいと認めるよ。」

「す、すごいですか?」

「すごいと思う。」

「でも、ブラックボアなんて、何度も討伐できる魔獣ではないですよ。それを無駄にしてしまって。」

「大丈夫だ! ここは未踏の森の奥地だろ。ニーテツ周辺に比べればきっと魔獣の数も多いだろ。ルッチが何回でも練習できるように俺が何度でも狩ってくるさ。だから、安心してまた挑戦してほしい。何度でも失敗して再試行して挑戦するルッチを応援するよ!」

「あ、ありがとうございます。」

 ルッチは元気を取り戻した表情でギジロウの方を振り向きお礼を言う。

「ところで、ギジロウさんはどんな失敗をしてきたのですか?」


 次の日、朝起きてギジロウがスープを作るために火を起こしているとルッチが声をかける。

「ギジロウさん、おはようございます。」

「お、おはよう。よく寝られたか。」

「はい。今日もまた故郷の話を教えてください。」

「わかったよ。」

 優しくギジロウは返す。

「あら、呼び方が変わったわね。仲良くなるために何かできたのかしら。」

「昨日、話を聞いてあげただけさ。」

「そうなのね、カイナ、ルッチの2人とは仲良くなれたかしら。」

「まぁ、これかも努力していくさ。」


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