第1話 助けを求める少女(1)
魔法がある世界ではという世界では、技術はどのように発展するのか?
そんな世界が気になりませんか?
攻撃魔法が発明されて500年。
火薬を忘れた人類は魔法を中心とした戦術で戦っていた。
攻撃魔法は高度化し各地で伝承されていた様々な魔法技術を取り入れながら発達するが、防御側の対策がそれを上間るように発展し、徐々に防御が優位な時代に突入する。
そんな世界で攻撃側が優勢な戦争が起こっていた。
「外が騒がしいけれどこんな時間に何事かしら?」
町から少し外れた高台に住む少女ルースは風にのって聞こえてくる、剣の音と叫び声が気がつく。
没頭していた実験の手を止めて小屋の外に出る。まだまだ星が瞬く時間である。
「暗くて良く見えないわね……あの制服は! もしかしたらこんな外れの町まで攻めてきたのかしら?」
炎に一瞬照らされた服をみてルースは敵国の制服であることを理解する。
そして、高台へと続く道を見ると松明の明かりが近づいてくる。
「ウソでしょ! 私を捕らえに来たの!?」
高台にはルースの家しかないためルースを狙っていることは明白だった。それを理解した瞬間、ルースの鼓動は早くなり身体か硬直する。
「に、逃げないと!」
無理やり身体を動かして小屋の中に戻る。暖かさですこし緊張がほぐれると、色々な考えが頭をよぎる。
「そうだ、魔法で魔獣を呼び寄せて、時間を稼がせましょう!」
何かをしなければという思いから、思い付いた策を順番に実施する。
ルースは魔方陣を床に書き、魔力を込める。魔方陣に魔力を込めつつも逃げるためにカバンに荷物を詰め込んでいく。
「もう、この辺の鉱石だけで良いかしら。眩しい!」
起動していた魔法陣が突然、通常では考えられないくらい強力に光り始める。その光を見てルースは自分の行動を後悔する。
「なにか間違えたかしら!? こんな暗闇の中でこんなに明るい魔方陣なんか魔法なんかーー」
少女の言葉を遮るように外から大声が聞こえる。
「光が漏れているあの小屋だ! 炙り出すために火を着けろ。」
襲撃者は小屋に近づき、中の確認せず火を着ける。
「えぇ! いきなり火を着けるの! やめてぇ!」
ルースは叫ぶが、火がつけられ。小屋の中に煙が充満していく。そして、煙を吸ってせき込む。
「な、なぜこんな野蛮なことをするの……。ここには貴重な鉱石や薬草だってあるのに…………。助けて……。」
床に積まれた薬草に引火し一層激しく火柱が昇る。ルースは薬草の燃えた独特な臭いの煙と熱から逃れるように机の影に身を潜める。その瞳には涙が浮かべる。
「そもそも、内側で何の魔法が起動しているのかわからないのに、いきなり近づいて火を着けるなんて馬鹿じゃないかしら!」
ルースは恐怖を通り越して怒りの感情が沸き立ち炎の中で立ち上がる。そして、魔法で壁を吹きとばす。
内部で充満していた熱と煙が一気に漏れ出し周囲を取り囲んでいた襲撃者が怯む。その一瞬の隙に少女は穴から全力で森の中へ走っていく、周囲を取り囲んでいた人物達も遅れて追いかけていく。
「あなた達の思い通りになんかならないわ! 絶対に捕まるものですか!」
燃える小屋の中では魔法陣が動き続ける。
火が消えた少しあとに魔法陣が一層強く光り閉じる。そして、魔法陣があった場所には1台の軽トラックが止まっていた。中には20代の男性が運転席に座っていた。
「会社の指示で山奥の設備の確認のために現場に向かっていたはずなのに……どこだここは? 建物の中だよな。」
男は自分の姿をバックミラーで確認する。
「髪も髭も変わらないな。服も最後に覚えているときのままだ。」
ポケットの小銭入れのなかにあった「 深井 技治郎」と自分の名前の入った運転免許証をみて持ち物もとくに変わっていないことを確認する。
車から降りて周囲を確認しようと扉に手をかけたとき他の人の話し声が耳に届く。すぐに助手席側に倒れ込み身を潜め、息を殺して耳を澄ます。害意のある人物だったらどうするか考え心臓が激しく鼓動する。
しかし、燃えた小屋の中には誰も気を止めることなく話し声の主は去っていく。
周囲から人の気配が消えたらギジロウは体を起こす。倒れ込んだときには気付かなかったが助手席の座席に見慣れない1冊の本があった。
「こんな本は持っていたっけ。」
手に取って開いてみるとサバイバルの内容が書かれていた。
「今の状況にはぴったりだな。」
本を参考に行動を始める。
「サバイバルの基本は現状確認か。まずは今いる場所だが……、小屋というか廃屋だな。そして、煙が少し上っているということはもしかして少し前まで燃えていたか?」
ギジロウは窓越しに空を見上げると燃えた骨組みの間に星が輝いていた。
「とりあえず、外に出るか。」
小屋の外に出ると眼前には大きく夜景が広がっていた。そして見下ろした位置にうっすらと町が見える。
「なんか、集落から火と煙が上っているようだが……火災が起きているのか。望遠鏡があればよく見えるけど持っていないんだよな。そうだ、サバイバルの本に非常時に遠くを見る方法なんて書かれていないか。」
望遠鏡と考えながら本を開くと記載内容が変わっていた。
「まじか! 小学生向けの科学技術の本になっている! この本はもしかしてその時に求めている知識に応じて本の内容が書き換わる本なの? かなり便利だな。」
ギジロウは魔法のように便利な本ということで魔導書と名付ける。
魔導書が示した本を斜めに読み進めていくと望遠鏡の作り方のページを見つける。
「あった、あった。えっと、凸レンズが2枚とレンズを平行に動かせる筒があればよいのか。筒は荷台に乗っている段ボールを加工すればよいだろうが凸レンズなんてないぞ。」
燃えずに残っていた棚や机の中にレンズの代わりになるものがないか探すと、机の引き出しから大小2つの虫眼鏡を見つけた。
「持ち主には申し訳ないが少し拝借。とりあえずこれで簡易望遠鏡は作れそうだな。」
車のエンジンをつけライトを点灯しそれぞれの虫眼鏡の焦点距離を測る。焦点距離をもとに必要な長さの筒を2つ作りその両端にレンズを張り付ける。
「最後に2つの筒を組み合わせたら簡易望遠鏡の完成だ。久しぶりの工作は楽しいな。まだまだ、手先の器用さは落ちていなさそうだ。」
夜明け前の薄っすらとした明るさの中、望遠鏡で町の様子を確認する。
「何かの集団に襲われているようだな。服装が揃っているということは軍隊か警察か? 公権力が町を襲うとか治安が悪すぎるだろ。」
町から小屋に続く道の様子を確認すると小屋に向かってくる人物がいることに気づく。
「どう考えても町を襲っている武装集団だな……。話し合って見逃してもらえる雰囲気ではなさそうだし逃げるか。」
周囲を観察すると沢に沿って森の中に道が続いている。
「これくらいの幅員があれば通れるか。」
ギジロウは車のエンジンをかけ慎重に沢の方へ車を走らせる。
30分ほど車を進めると戦闘の形跡が残った場所に辿り着く。周囲にだれもいないことを確認し、車から降りて武器になりそうなものを探す。
(まともに使えそうなものは残っていないな。)
そして、木の陰にパンパン膨らんだカバンが落ちているのを発見する。男性が中を確認すると薬草らしき草や鉱石が入っていた。
「さきほどの集団の持ち物では……ないな。武器類が入っていないし。落とし主は別の人間か。内容物からして医者が学者か?」
持ち主を想像しながら周囲を見渡すと、カバンから少し離れた場所に足を引きずりながら歩いた跡が残っていた。
「こちらの足跡も新しい! 怪我人が逃げているのか?」
男性は見知らに誰かを心配して足跡を追うように車で移動する。
しばらく車を走らせると足を引きずりながら歩く銀髪の少女をハイビームの光が照らした。