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第五話

 

「戻ってきたよ~、ごめんね、待たせた?」


 スーレィがそう言いながら寝室のドアを開けると、布団から上半身を起こしたままの少女は一瞬「ぃ......」と何か言いたそうにしたがすぐに首を横にぶんぶんと振った。


「大丈夫?喉痛い?」


 と聞きながら近づくと、少女はゆっくりと頷いた。


 スーレィは椅子に腰掛けると

「そっか。......じゃあ、ゆっくり休んでね。そうすれば、明日とかには治るはずだから。」

 と言い、少女を見つめる。


 少女は素直にこくっと頷くと布団を被る。しかし、何か退屈そうなものを感じる表情をしている。


 それを見たスーレィは、


「寝てるだけだとつまんないから、ちょっとお話しようか。頷いたりするだけで答えられるから、喋らなくて大丈夫だよ。あ、もしはいかいいえで答えられなかったら、首を傾げてね。」


 と言う。少女がまた素直に頷くのを確認すると、スーレィは質問を始めた。


「日本っていう国、知ってる?」


 少女は首を横に振る。そして次の瞬間、まさか、と言った顔をしたので、スーレィは眼を閉じて頷き、


「そう。ここ、日本っていう国なんだ。」


 少女はみるみる焦り顔になる。スーレィは構わず、スマホを取り出して文字を入力すると、


「あなたって、自分の国の文字読める?」


 焦りながらも少女が頷く。スーレィはスマホの画面を少女に見せ、


「これ、読める?」


 と聞く。そこには、日本語、英語、ラテン語、アラビア語、中国語、朝鮮語で書かれた、

「私は遭難しました」という文が並んでいた。


 少女はスマホ自体を不思議に思っていたが、その文を見るとどれも不思議そうな顔をしてから、首を横に振った。


 それを見たスーレィは、


「じゃあ、自分の国の文字、書ける?」


 と聞くと、少女は頷いたので、スーレィは机の上にあるメモ帳と鉛筆を取り出し、

「自分の名前を書いてみて」と言った。


 少女は最初試し書きなのか線を引いていたが、やがて線を引いてるとは思えないものを書き始めた。


 スーレィは少女の様子を注視していたが、とてもふざけているとは思えない。


 そう考えていると、書き終わったのか紙を見せてきたので、スーレィはまじまじと見つめる。そして、目を見開いた。


 ──そこに書かれていたのは、見たこともない線の繋がりであった。どうやら一筆書きで、ところどころアルファベットに似てそうな雰囲気のものもあるが、やはり何が書いてあるのか分からない。


 ──この時、スーレィは一つの非現実的で、だがそれが真であれば全てを理解できる可能性を考えた。


 それは────この少女は、異世界から来たのではないか、と。


 だが実際に真であるとしても、不思議な点が一つある。それは何故今日本語が通じているのか、という点だ。


 こんなにも文字が違って、発音が同じなどとそんな馬鹿なことはあるか、そもそも異世界で文化の違いがある中で発音が完璧に一致する、そんな天文学的確率のようなことは有り得るか。


 スーレィは思わず熟考してしまう。


 しかし分からないことだらけの状態で結論を編み出すのは、その結論の信憑性は薄いこととなる。


 今は情報を集めることが先だ、と思考が切り替わり少女に目を向けると、不安そうな顔をしてこちらを見ていた。


「大丈夫。ちょっと考えごとしてただけ」と安心?させると、


「日本のこと、知りたい?」と聞くと、少女はこくこくと頷いたので、スーレィは少女に、


「じゃあ日本のご飯について話そうかな。」


 と言うと少女はぐう、と腹の音で返事をした。


「あら、良いお返事」


 と言うと、少女は顔を赤くして少しうつむいた。


──────────────────


 日本の料理や観光スポット、ちょっとした歴史について話していると、いつの間にか午前11:00になっていた。


 少女が料理の話をしているときに目を輝かせていたのは言うまでもない。


 スーレィは

「じゃあ、今日はこんなところにして、明日とか、あなたが喋れるときに話そうか。あなたの名前知りたいの。」


 と言うと素直に頷いたので、スーレィはふふ、と笑顔で返す。


「今、お腹空いてる?」


 と聞くと少しこくこくと頷く。


「じゃあ、もう少ししたらお昼ご飯にしよっか。さっき話した、お寿司っていうごはんにしようかな」


 と言うと、少女は勢いよく頷く。


 楽しみで仕方がないようだ。


 体型的にはもの凄くやせ細っているが、どのような食生活をしていたのだろうか。


 ただそんなことを考えるよりも、スーレィは少女のご飯を楽しみにしている元気で可愛い姿に癒されていた。


 アニメや漫画でしか見れない猫耳が、今目の前にある。


 そしてそれを有する者が可愛く、今は表情が晴れている。


(──この子、将来的に米5合とか平気で食べそうだな......)


 スーレィは少女の目の前に積まれた空の茶碗の数を予想しつつ、寿司を予約するべくスマホで自社経営の回転寿司サイトを開き予約を始める。


 寿司初心者でも食べやすいたまごやハンバーグといったネタを多めに配分し、自分用と少女用で鮪、サーモン、炙りチーズサーモンをそれぞれ四貫ずつ入れる。


 最後に醤油とわさびを一つ頼み、サイドメニューでフライドポテトを追加し予約する。


 画面には「ご注文ありがとうございます。30分後に店頭にいらっしゃいませ。」と書かれており、

予想より速いことに少し安堵する。


「あとちょっとしたらお寿司取りに行くね」と言うと、少女が楽しみでたまらないといった顔をしたので、スーレィは店舗に行く際、車内で思い出し悶絶することになるが、それはまた別の話である。


















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