第四話
──ひかり、ちかい......ちょっと、あたたかい......
少女が洞窟のようなところを視界に映る一筋の光を頼りに這いつくばって進んでいると、出口が近いのか、少しずつ、少しずつその先の景色も見えるようになっていた。
日光すら通らなかった森よりも、だいぶ暖かくもなってきた気がする。
──みち、ある......
出口の先は道が続いており、水を滴らせた植物が道端に茂っているのが見える。
森とは打って変わって明るい印象で、
──で、た......
洞窟のようなところを抜けると、暖かい日差しが身体をあたため、右側に奇妙な形をした白い柵のようなものが見えた。
少女はその柵のようなものまで這いつくばり、痛みに耐えてゆっくりと寝返り、仰向けになる。
──ここ、どこなんだろ......てん、ごく......?
ふとそんなことを思いつつも、ぽかぽかしてきたので眠気が襲ってきた。
疲労困憊の少女が寝そうになる、その瞬間。
「──はぁ、やっぱ都会より空気がおいしいなあ......」
少女の耳が、その声を捉えた。
油断していた。天国かと思ったこの場所は、少女の終点なのかもしれない。
途端に少女は鳥肌が全身に立ち、ぽかぽかした気分が極度の警戒へと変わる。
死神はここまで迫っているのか、と。
身体は震え、冷や汗がでて、心臓が暴れる。
──やだ、しにたくない......みつかりたくない......!やだ、やだ、やだ......!
そんな気持ちが脳内をぐるぐると渦巻く。柵の隙間からその姿が見えると、更にその思考は加速する。
やだ、やだ、やだそんな言葉が頭で繰り返される。
少しでも、少しでも、最期から逃れるべく、少女は仰向けからうつ伏せになろうとすると、
──ガサッ、ガサガサッ
......音を立ててしまった。それと同時に、死神の動きも止まり、何か話した後、こちらに向かって来ているようだ。
ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ。足音が聞こえる。
その一歩ごとに、心臓の音がドックン、と重く聞こえる。
少女は、ただ、何もせず、うっすらと目を開け、最期を待つ。
しかし──柵の上からひょこっと出てきたものは、少女の想像していた姿とは違っていた。
──長く白い髪。驚いたようにこちらを見る緑色の眼。美しいその姿......これはどんなに酷評しようとも死神という言葉は出てこないだろう。
その美女は唾を飲み込みながらこちらを見て、それから四角い箱のようなものを持ちながらよく意味の分からないことを話し、戻ってくると、じっくりとこちらを見つめ始めた。
──な、なにっ?
しばらく美女に見つめられ少女の身体が少し強張ったとき、ズボンから水が入っている、なにかが描かれた透明な容器の上部を開け、自分の身体にかけはじめた。いや、手で洗っているともいえようか。
ひんやりとした感覚にすこし驚くが、水を見たことで喉の渇きが途端にこみ上げてきた。
何か縋るように水を見ていると、それに気づいたらしい美女が、自分の口の前に容器を持ってきたので、自分がおとなしく口を開けると、そっと口の中に水を注いできた。
──みず、おいしぃ......
ひんやりとした液体が喉の渇きを潤し、心地よさを感じる。
何回かに分けて水を注いできたので全て飲み干す。あまり貰うとあとで何を求められるか分からない。
容器から目をそらすと、美女は再び身体を手で優しく拭き始めた。
──きもちぃ......
その心地よさに耐えきれず、少女は眼を閉じ、意識を手放した。
────────────────────
「ん......」
気がつくと、柔らかく、暖かい何かに包まれたような感触。それと、身体の左に大きく、まるで人肌のような暖かさをもつものがくっついてると思い、ゆっくり顔を左に向けると、そこには静かに寝息を立て眠る美女がいた。
死神どころか幸せの象徴の女神にすら見える。
──あ、あったかくて......また......
と、そんなことを思っていると、また眠気が襲ってきて、少女は抗うことなく、眠りについた。