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第三話

 



 リアとの通話が終わり、スーレィはポケットにスマホをしまい戻すと、机の上の皿を取り、台所に行き速やかに洗う。


 ものの数十秒で洗い終わると、何か違和感を感じた。


「......あ、私まだ朝ごはん食べてなかったんだ。」


 少女がおいしそうに食べているのを見て、あたかも自分も食べてたかのような錯覚をしていた。


 少女と食べていたような気分が一転、途端に空腹感が襲ってきた。


 そしてその兵器の恐ろしさはここからだ。自分も同じものが食べたくなってくる。


 スーレィが兵器に抗う術はなく、いつの間にか食器棚からマグカップとスプーンを取り、食パンと生姜スープの箱から袋を取り出して粉をマグカップに入れ、電気ケトルのスイッチを入れていた。


 しっかり60℃にもなっている。


 まるでロボットのように一回目とほぼ同じ動作をするスーレィ。


 唯一違う点は、今冷蔵庫から出した飲み物が天然水であることだろうか。


 電気ケトルにスイッチを入れて、冷蔵庫から水を取り出している間に、さっき沸かしたからなのか10秒程でカチッと音を立てると、スーレィはマグカップに湯を注ぐ。


 そしてマグカップとパンを食卓の上に置くと、無線イヤホンを耳に付けスマホに接続し、「一つの旗、一つの言語、一つの言語」を再生する。


 優雅な音楽とともに食べる生姜スープに浸した食パン。少し、贅沢を感じる。


 このちょっとしたメニューで感じる贅沢が、ちょっとした幸せを築くと考えると、これからの少女との関わりがこの幸せの何倍もの何かが来るという期待で胸がいっぱいになってくる。


 ただあの少女は謎も多い。猫耳が付いていることから始まり、何故言葉が通じるのか、どこから来たのか、など、掘り下げていけば山ほどある。


 そう考えると期待が悲観になってくる。なんか、音楽が優雅から暗い曲調に聞こえてきている気がする。


 しかし根拠がない期待は不幸を呼ぶこと、そして謎が多いという現実を分かっていても、期待を完全に捨てることができない。


 スーレィはしばしそんな感情と理性の張り合いにあまり少女と離れるとまずいのではと気がつくまでのめり込んでいたが、その後からはささっと朝食を済ませ、速やかに食器を洗うと、少女の眠る部屋に向かっていった。


 ────────────────────


 同時刻、首相官邸、首脳会議室。


 スーレィとの電話を終えたリアは、この部屋で、中華民国総統、邸 小龍 (ディイ シァォロン)

 と会談を行っていた。


 故あって中国本土、北京に帰還した中華民国政府は、中国大陸の民主化を進め、チベット、ウイグル、香港、マカオ、モンゴル(中華民国とモンゴルの協議の結果、最大限の自治権を認める代わりに併合された。)の大幅な自治権拡大等を行い、一気に健全な民主国家として成り上がった。


 故あって人工は激減し、国土も荒廃したが、再開発を進め、再びGDP第2位の大国へと返り咲いた。


 特に上海、香港、南京、重慶の発展ぶりが凄まじく、特に南京は首都移転計画が持ち出されるほどの発展を見せている。


 世界中の企業が進出し、半導体から農業までありとあらゆる面で今なお大躍進している隣国、中華民国との関係は日本にとって重要で、三回目となる今回の会談は、主に対蘇を目的とした自衛隊と中華民国軍による合同演習、博多、鹿児島中央、那覇、台北を通る高速鉄道共同開発計画といった内容が組み込まれている。


 そして、丁度今、合同演習の会談が行われている。


「──それで、中国軍の練度ですが、現状モンゴル、満州地域から赤軍が越境してきたら、防衛線は張れますが持っても二年で、反転攻勢による領土奪還も厳しいでしょう。旧人民解放軍から接収した武器は大半が状態が悪く、新規の兵器開発が急務であり、また人員拡大も行わないとなりません。幸いなことに志願してくれる人はたくさんいるのですが、まだ我が国は技術レベルが低く、逆にそれは練度が低い兵が増えることも意味します。なので練度が高く戦車であのような精密射撃ができるような自衛隊との合同演習をしたいのですが......」


「分かりました。前向きに検討させていただきます。あと、提案なのですが、中国軍にこちらの指導員を送りましょうか?」


「おお!ありがとうございます。是非お願いしたいです。」


「あと、中国の防衛力を底上げするためにも、EMP攻撃やサイバー攻撃などに対応できる地下施設やインフラなどの開発援助、あと、中国軍の兵器の中国での生産ラインの拡大などを秀社に提案しときますね。」


「ありがとうございます!いや~秀社製の兵器、特にUHAR-8は兵士たちの間で好評なんですよね。旧人民解放軍から上がってきた兵士も、56式より断然いいと言っているんですよ」


「まあ米軍からも絶賛を受けている兵器ですからねぇ......あ、ちょっと話がそれるのですが、もしよろしければ総統閣下からそちらの国民に呼びかけて欲しいことがありまして......」


「もしかして、最近問題になっている......」


「はい。中国人観光客のマナー問題です。大半の方々はできているのですが一部の方々が......」


「最優先で行わせていただきます。日本の景観が自国民によって汚されるのは極めて遺憾であり、また、そんな小さなことで国家間の友情が崩れるのは大きな損失です。何かが崩れるのは足もとから。総統として、自国民に呼びかけておきますね。」


「はい、お願いします。では、合同演習の詳細は後日防衛大臣と──」


 如何にも親しげに進む会談。と、いうのも、この二人は仲が良く、実は総統になる10年前、リアが家族と台湾旅行をしていて、喫茶店でリアが床に水をこぼしてしまったとき、当時選挙に出馬中の邸 小龍が店員顔負けの速さで清掃し、そこから知り合いになっていたのだ。


 そのことが「少女のこぼした水を拭いた親切心を持つ邸 小龍」と中華民国でSNSで広まり、なんと当選。そこから躍進していき総統に上り詰めたのだ。しかもリアが総理になったことで再びその話が「未来の日本の首相に親切にした邸 小龍」と変わって広まり、その後日中関係は日米関係と並び最高のものとなったため、「水拭関係」と後に呼ばれることとなる。


 そんな経緯があり、よく日中共同記者会見が行われている最中はSNSで「真の握手」という単語が広まる。


「──EAUに中国、米国、日本、大韓民国が加わっているとはいえ、ソ連の発展度合いは凄いですからね......」


「まあ、立地的に西はNATO、東は東亜連盟に囲まれてるので国防に力を入れるのは分かりますが、

 領空侵犯はちょっと......我が国の北方領土にこないといいんですけどね......」


「まあ、安保の話はここまでにして、次は高速鉄道の話に移りますか。博多を起点とした南日中高速鉄道と、大韓民国も入れて将来的に協議する、北京、平壌、ソウル、釜山、対馬、博多、中央、新山陽新幹線を経由し岡山、神戸、新大阪、京都、東京に至る東アジア中央高速鉄道について──」


 この後四時間に及ぶ会談を行い、昼食になったのであった。

























































次回少女中心です。

あとつっこみが怖い。

「真の握手」・・・・・・言葉通り、誠意がこもった握手で、それ以外の首脳同士の建前の握手を皮肉ったもの。

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