表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第一話

 

「はぁ、やっぱ都会より空気がおいしいなあ......」


 脇に日差しを遮るかのように植物が茂り、たまに水が滴る物静かなあぜ道を、一人の少女が楽しそうにスマホ片手に進む。


 その名はスーレィ。十八歳。この若さにして世界企業「秀」の代表取締役を務める彼女は、たまにこのようにして散歩の配信をしている。


 腰まで届く長い銀髪、どこか優しさのような安心感のようなものを醸し出す緑色の瞳。美しさ全開のその面差しが放つ魅惑は、瞳と相まって柔らかな日差しのような暖かさを与える。


 圧倒的でかさを持つのも彼女の魅力である。


 そんな少女が梅雨明けしてしばらく経ったあぜ道で散歩をしながらコメントでの質問に笑顔で答えるただの散歩配信を、100万を超える人が見ている。


 流石代表取締役、といったところであろうか。


 ぎゅるる......


 空腹を示す音が配信に、あぜ道に響く。


 少し照れたようにしながら、


「そろそろお昼にしよっか」


 とスマホをみながら呟く。


 何かいい場所はないかあたりを見回すと、少し先にトンネルにも洞窟にも見える大きな穴があった。


壁と見られる場所に「第八......」とそこまで読めてその後が読めない看板のようなものもある。


「ラッキー、暑さ凌げるじゃん!」と、そこにダッシュで駆けつけたスーレィは、これ幸いとばかりにトンネルもどきに入ろうとすると......


 ──ガサッ、ガサガサッ


 左から、僅かに音が聞こえた。


 すかさずスーレィは左に目を向けると、一瞬だけ、道端に(何故か)あるガードレールの裏で、黒い何かが動く様子が見えた。


 音が聞こえていない視聴者が、突如黙って左を注視するスーレィの様子に不安を抱く。

「大丈夫?」「どうしたの?」

 等のコメントが流れる。


 "STAFF A"というユーザーが、「スーレィ様、何かあったらすぐに車で駆けつけます」とコメントする。


 それを目端で捉えたスーレィが、「大丈夫。何かあったら、ね?」と冗談混じりのような顔と声で言う。


 "STAFF A"は「了解しました。冗談で済むことを祈ります。」とコメントする。


 この"STAFF A"とは、今のスーレィの散歩開始場所まで車で送る運転スタッフである。


 ただの送迎だけでなく、非常時に対応できるよう、配信を監視している。


 この待遇は別にスーレィだけではなく、秀が運営する配信者のグループメンバー全員に施している。


 ただほとんどの場合は配信者を送迎して車内で配信を楽しめるという仕事内容の楽さ故、倍率が飛び抜けているのだが。


 ちなみに様付けなのは本人の意向である。


 他の視聴者は"STAFF A"に反応しつつも、何が起こるのか分からないことと、スーレィが「何があるか分からないから、一応私の顔だけ映しとくね」と言ったため、本日のスーレィの昼飯を期待する気分が一転、コメントが途端に少なくなった。


 スーレィはガードレールに向かって慎重に歩を進め、ガードレールの裏を見ようとする。


 だが近づくにつれ僅かに呼吸音のような音が聞こえることに警戒し、ゆっくりと顔を出してガードレールの裏を覗き込む──その瞬間。


 スーレィは見えたもの、いや者に言葉を失った。思わず唾を飲み込む。


 そして静かに、「......すいません、ちょっと車こっちに出してもらえますか」と呟いた。


 真剣な顔をしてそう述べるスーレィに、コメント欄は騒然となるが、それを尻目に「了解、理由は言えま......せんよね」と"STAFF A"がコメントした。


 そして「大変申し訳ございません、ちょっと配信を中止させていただきます」と述べ、何度も断りを入れて配信を終了させると、じっくりと、その者を見つめた。


 仰向けに倒れているその者──その少女は、とても可愛らしく、そして少女の様子をよく表していた。


 腰までかかりそうな黒髪、僅かに開いた眼から、濃い灰色の眼をしていることが分かる。顔つきは可愛く、僅かに目を開け、自身を見るその眼差しは、僅かながら何かを縋るような想いが見える。身体は小柄で、可愛らしさをより強くしている。


 そしてその可愛らしさに現実が突き刺さる。全身の各所が土汚れや傷が見られ、ボロボロの服から露出した肌にも見られる。


 目の下には濃いクマができており、疲労困憊といった様子が一目で分かる。


 そして何よりも目を引くのは、ホモ・サピエンスにはありえない、猫のような耳を頭に持っていることである。これが可愛さを圧倒的なものにし、そして痛々しさを強調する。(更に確認したら普通の人間の耳の位置に耳がなかった。)


 スーレィはその可愛さに唾を飲み込み、そして少女がこんなことになったのは誰の仕業なのかと数年ぶりの怒りを静かに感じていたから、真剣な表情で静かに呟いたのだ。


 スーレィは左ポケットから「山中湖天然水(500ml)」とラベルに書いてあるペットボトルを取り出し一瞬で開栓し、水が傷に当たらないように慎重に土汚れを落としていく。その様子を僅かに開いた眼で見つめた少女が、水をじっと見つめる。


 少女の様子を見ながら作業していたスーレィは、その様子にすぐに気がつき、水を少女の顔の前に持ってくると少女が口を開けたので、スーレィはそっとその口に注ぐように水を流した。


 少量の水を何回か注ぎ、そのどれもを少女は飲み込み、ペットボトルから視線を逸らしたことを確認したスーレィは、再び土汚れを落としていく。


 丁度見える範囲での(仰向けだったので無理に背中側は洗わずそのまま)土汚れを落とし終わった頃に、車のタイヤがあぜ道を通る音が聞こえ、その音の方を向くと、見慣れた顔の"STAFF A"──もとい、"明石達郎"が運転する白いワゴン車が接近していた。


 大きく手を振ると明石はそれを見て安心したような顔をして、スーレィの前で車を停めた。


 車の窓を開けたのでスーレィが少女から離れ車に近づくと、


「スーレィ様、どうかなさったんですかい?」


 明石が話しかける。


「うん。実は──」


 明石に少女をそこで発見したことを伝える。


「──それで、だいぶ弱っているようだし、保護してあげようと思うの」


 一瞬明石は上を向き、


「なるほどなぁ、猫のような耳を持つ少女、か。まあ、仕事はやらせてもらいまっせ。その可愛い子はよ乗せて行きましょか。」


「うん、分かった。」


 そう言ってスーレィは少女の元に戻り、


「──ごめんね、一回、だっこするね?」


 と優しい眼と声で言うと、少女はされるがまま抵抗もせずに持ち上げられ、

「うわ、めちゃかわええやん......」という明石の腑抜けた声とともに車の後部座席に寝かさせられる。


 そしてその隣にスーレィが座り、


「頼みます」


 と言うと明石が


「あいよ。」


 と言いUターンして車を運転したのだった。


────────────────────


 明石によってスーレィは少女とともに自宅に着き、感謝の言葉を受けた明石は


「これで給料もらってるんで。礼なんていりまへん。」


 と言い残し去っていった。


 スーレィは玄関前に立ってなんとかして玄関の鍵を開け、自宅に入る。一度少女を床に置き、靴を脱いで再び少女を持ち上げると、リビングに入った。


 いつもと変わらないリビングを素通りしてスーレィは洗面所へと向かうと、少女の服を脱がし始めた。


 少女はいつの間にか寝ており、ボロボロの服を脱がすのも容易であった。


 そしてスーレィは水着姿となり風呂に入る。


 寝ている間、つまり少女が痛みを感じないうちに、少女の身体をシャワーだけでもいいから洗い流そうという考えだ。


 少女は身体全身が酷く汚れ、所々の傷は痛々しい。


 スーレィは少女の身体を洗い流しながら、明日少女にもし話せたらいろいろ質問しよう、と考えた。


 見違えるほど綺麗になった少女をバスタオルで丁寧にふき取り、未だに持っていた子供の頃のパーカー(黒と灰色の配色)等を懐かしみながら着せ、身体を持ち上げて二階の寝室に連れ込み、ベッドに寝かせる。


 傷以外は綺麗になった少女の寝顔。その圧倒的な愛くるしさに、スーレィは思わず顔に手を伸ばすが、

頭をなでようとした手を自制し、少女の肩を揺らした。


 意外にもすぐに起きた少女に、「飲み物とってくるからまっててね。」と伝え、スーレィは一階に戻り、栄養が豊富に入っている飲料のペットボトルを冷蔵庫から取り出すと、寝室に戻り少女に声をかけた。


「一回、起き上がれる?」


 と言うと、少女は起き上がろうとする。ただ、少し痛そうな顔をしていたので、背中を手で支え、起きあがらせる。


 スーレィは少女の口に開栓したペットボトルをそっと当て、水を流し込ませる。少し甘めのその水に少女は少し驚いたかのように僅かに目を見開くと、必死そうに飲む。


 飲み終わったとき一瞬「......ぁ」と声を出したことに、スーレィは安堵した。先程から一回も話しておらず、声を出せるか不安であったのだ。


 「ふふ、よく飲めました」と笑顔でスーレィが言うと、少女はまた「......ぁ......」と声を出す。


 スーレィは


「ふふ、まだしゃべらなくて大丈夫。無理しないで、いつでも話せるときに話してね?」


と優しい笑顔と声で言うと、少女は眼を細め、静かにベッドに横たわった。


 それを確認したスーレィは、寝室の電気を消してその場を後にした。

────────────────────


寝室から出たスーレィは、スマホを開いてSNSを開く。


「......うん、まあそうだよね......」


SNSでは昼間の一件が話題を呼び、スーレィの安否を心配する投稿が大量にされていた。


スーレィはとりあえず「無事です。事情説明はちょっと先になるかもしれないです。」


と投稿し、次に電話帳アプリを開いて「副社長」をタップし電話をかける。


ものの数コールで応答した。


「どうかしましたか?スーレィさん。昼間の一件の相談ですか?」


「ああ、それもそうなんだけど、それよりまず大事なことがあってね......」


「はいはい?」


「ごめん、明日仕事有給取って休むね。」


「......珍しいですね、まあ昼間の一件のせいなのでしょう......聞くのが怖いので内容は後日にしておいて、分かりました。明日社長と面会予定のすべての人に代わりに対応させていただきます。そして私と面会予定の方は清原に頼もうと思います。いかがでしょう?」


「うん。問題ないよ。ごめんね、いきなり有給なんか取って......」


「いやいや、あまり配信とかSNSの活動以外だと休まないじゃないですか......」


「まあ、そうだね。羽を伸ばす訳じゃないけど、明日は休ませてもらうね、それじゃ。お仕事の続きも頑張ってね!では!」


そう言って電話を切ると、スーレィは一階の洗面所に行って洗濯機を回した後、二階のデスクトップパソコンがある部屋へ行き、仕事を進めた。


たびたび休憩を挟んだり洗濯を行いながら、20時になって夕飯の準備をしようとふと立ち上がると、少女が腹を空かせていないか心配になった。


寝室にそうっと移動し、静かにドアを開けると,そこには可愛らしく寝息をたてて眠る少女がいた。


スーレィは(人生で久しぶりに二人で寝ることになるのかぁ......)と思いつつ、腹を空かせていない少女を見て安堵し、キッチンへと向かった。


慣れた手つきで食材を調理し、あっという間にできた胡椒をかけたパスタを食べ、次に風呂に向かう。


服を脱ぎ、身体を水で洗い流し、いつものように髪と身体を洗う。


湯船には15分しっかり浸かり、風呂から出た後はバスタオルで身体を拭き取り、洗濯機を回す。


洗濯機が洗濯している間に寝間着(ピンク色で白いもこもこがついた可愛らしいパジャマ)を着て髪をドライヤー(音量控えめ)で乾かしたり歯を磨き、皿洗いをしたりして、洗濯し終わった洗濯機から洗濯物を取り出し外に乾かす。


そしてスーレィは一息着き、トイレを済ましてコップ一杯水を飲んで二階の寝室へと向かう。


寝室に入ると相変わらず少女が可愛らしく、心地よさそうに眠っていた。


「......ふふ、可愛い」


スーレィはその隣に寝転び、布団を自分と少女に被せ、少女の愛くるしい顔を見ながら、眠りにつくのであった。































正直女性の髪のお手入れとか分からないので描写が適当かつgdgdです......

ご了承を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ