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「あら、いたのね。薄汚い身体だから床に混じって気づかなかったわ。」

「きゃあ!すみません、お義姉さま。つい手が滑って、紅茶がかかってしまいましたわ。まぁ、お義姉さまなら構いませんよね?」


 キャハハハハと嗤う義母と義妹が去っていく。背中に靴跡を残し、頭から紅茶をかぶったサリーシャは唇を噛んだ。


 (…どうしてこんな屋敷の隅まで来るの?私のことなんて放っておいてくれたらいいのに。)


 薄暗い廊下の煤けた壁にもたれこんだ。お腹が空腹を訴えてくる。当たり前だ。ここ3日間、彼女は何も食べていないのだから。雨が降ると、屋敷の外にある残飯所はぐちゃぐちゃになって、食べれるようなものがなくなってしまうのだからしょうがない。


 (しょうがないですまない気もするけれど、しょうがないとしか言いようがないわよね。)


 サリーシャは自虐的な笑みを浮かべる。そして、窓の外に目を向けた。


 (でも、もう雨も止みそうだわ。この分なら明日は水以外にも口にできるかもしれない。

 あら、止んでしまう前に紅茶を流したほうがいいのかしら。)


毒入りの紅茶を被っているより雨で濡れたほうがマシだ、そう考えた彼女は震える身体に鞭打って立ち上がった。



 サリーシャは誰にも見つからないように気を付けながら、屋敷の外に駆け出した。雨粒がシトシトと身体に降り注ぐ。屋敷の裏手の林に着いた彼女は、木々の真ん中で立ち止まった。顔に纏わりつく髪を鬱陶しそうに掻き上げると、空を見上げた。こうしての空の上にいる母に話しかけるのも久しぶりだ。


 (お母様が亡くなってからもう8年も経つのね。この屋敷もすっかり変わってしまったわ。お金がないのか屋敷もボロボロで、お母様がお手入れしていた花壇の花もすべて枯れてしまって。使用人の入れ替わりも激しく、お母様の頃の使用人は誰一人残っていないのよ。あら、彼らは私を置いて逃げ出したのかって?)


 なんとなく、プリプリと怒る母の声が聞こえたような気がして、サリーシャは微かに笑った。


 (いいえ、声を掛けてくれた人もいたけど、私は自分の意志でここに残ったのよ。

だって、彼と約束したんだもの。たとえ、あさましいと言われようとも、みすぼらしいと思われようとも、私はここにいないと。)


 このまま帰れば屋敷の中を濡らしてしまう。サリーシャは、葉の多い木の幹にもたれて瞳を閉じた。このまま寝たら熱を出してしまうかもしれないが、これもまたしょうがないことなのだ、と。



 だけれども、現実はやっぱり非情で、その翌朝、だるい身体を引きずって廊下をひっそりと歩いていたサリーシャは開いた扉から聞こえてきた話に足を止めた。

読んでくださりありがとうございます。

はじめは、短編にする予定だったのですが、思いの外長くなりそうだったので連載にしました。

続きが気になる方は、ブックマーク、評価などなどお願いします。


「前世の記憶がよみがえったので、叫びました。そうしたら、溺愛されました。」

https://ncode.syosetu.com/n6906he/ (短編です)


「転生した悪役令嬢は「世界征服」を目標に奮闘する」

https://ncode.syosetu.com/n1801hd/ (連載です)


など、他の作品も書いています。もしよければ、読んでみてください。

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