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果ての灯台守  作者: 冬ノゆうき
第1幕 見知らぬ天井
3/13

1

チックタックチックタック――


 上品な時計の刻を刻む音が聞こえてくる。

 マリウスはそんな音で目が覚め、ゆっくり眼を開ける。そこには見たことがない真っ白な石の天井が広がっていた。明らかに木造軍艦の天井ではなかった。

 どうやらベットに寝かされているようだ。

「僕は……いったい?」

 頭に何か靄がかかったように昔のことが思い出せない。

 しばらく混乱している頭でなんとか記憶を整理してみる。

『確か……遠征のために海軍の船に乗って………途中で嵐に巻き込まれて…………』

 寝たまま横を向く。窓にはカーテンは閉められているが、明かりが漏れてないところを見ると夜のようだ。

 ふと、ベッド横の机に置かれている愛用の剣柄が目に入る。

「け、剣!?いぃ、いたぃたったっ」

 愛用の剣を確認しようと身体を起こすと全身に鈍い痛みが走る。よく見ると全身に包帯が巻いてあった。しかも帝国騎士制服を着ていたはずだが、今は入院患者が着るような薄い寝間着のようなモノを着せられている。

 身体の具合を探るようにゆっくりと身体を動かす。

 とりあえず、打撲の痛みはあるが骨折とかはしてないようだ。痛みに顔を歪めながら身体を起こして机の上の剣を取って柄から抜く。

「ふぅ~よかったぁ……」

 祖父から頂いた愛用の剣は、心持ち柄が湿ってる以外は、傷どころか刃こぼれ一つ無い綺麗な刀身をマリウスに見せてくれた。誰がしてくれたかわからないが、刀身の水滴は綺麗に拭き取られている。

 剣が無事だったのを確認すると周りを気にする余裕ができた。

 とりあえずここが何処なのか調べる必要があると思ったマリウスは、少し躊躇いながらも愛用の剣をつかんで立ち上がる。部屋はベットと横机、空っぽの本棚があるだけの質素な部屋だった。服や靴はどうやら無いようだ。

 まず窓を調べてみる。

 外はわずかに明かりが灯っており、夜でも様子をうかがうことができた。

 うっすらだが、目の前に海が広がっているのがわかる。光源はこの建物の上の方にあるようだ。見上げてみると、白い外壁を持つ建物の上の方に明かりがチラチラと灯されているのがわかる。

「上に誰かいるかも……」

 そうつぶやくと、見あたらない服と靴は諦めて部屋を出る。

 部屋を出ると左右に廊下が延びており、等間隔でドアが並んでいる。廊下は弧を描くようにカーブしている。また廊下はランプが灯されており、薄明るい程度の光量だが歩くのには支障なかった。

 まず右に向かって廊下を進むが、すぐに元いた場所に戻ってきてしまった。この建物は塔のような形のようだ。

「階段は?」

 廊下の内側の扉を何気なく開けてみる。

 階段は簡単に見つかった。塔の中心部を螺旋階段が走っていた。

 ただしその螺旋階段の長さは尋常じゃなかった。

 廊下同様に等間隔にランプが灯されているが、そんなランプの明かりなんて暗闇にとけ込んでしまうほど深く、底の見えない螺旋階段が下に続いていた。

 ただ幸いにも上は階段の終点を見つけることが出来た。

 ここから4階ほど上がったところだろうか、螺旋階段が終わり、うっすらと天井が見える。

 マリウスはとりあえず行き止まりが確認できる上の階から見てみることにした。

 階段や壁は岩をそのまま削っただけの荒い造りだったが、日や風雪にまったく晒されていないせいか、表面が脆くなったりもせず、苔なども一切生えていなかった。

 その螺旋階段を登りきった先には不思議な文様が全体に掘られた金属の扉が1つだけあった。

「この扉、ノブがない?」

 試しに押したり引いたりしてみるがびくりとも動かない。もちろん横に引いてもダメだった。

 この扉を諦め、下に降りていってみようと扉に背を向けるマリウス。

「……ナニシテル?」

「うわぁっ!?」

 こんな場所で突然背中に声をかけられたものだから、全身の毛穴が開くほど驚いた。

 慌てて振り返るマリウスの目には―――形容しがたい生き物?が立っていた。びっくりして腰が抜けそうになるのを何とか我慢する。ここで腰を抜かしたら、螺旋階段を転げ落ちてしまっただろう。

 何処から現れたのかわからない。ほんの少し前にはいなかったソレは、手足頭を持ち人間のような形をしている。その身体は金属の棒などで構成されていた。顔も両目と口にあたる部分に穴があるが、人間の顔には似て非なるモノだった。マリウスの知識の中で一番近いモノとして、魔法学院で見た疑似生命体ゴーレムに似ていた。

「オイ」

「え、えっと……」

 背丈がマリウスの半分ほどだが、その生き物?は腰に手をやり態度がでかかった。そして何やらご機嫌斜めな様子だ。

「ナニシテル?」

「あ、いやここが何処なのかなと思って……」

「ハテノトウダイ。ミルニチカ・アランテスタ様ノトウダ」

 腰を手にやったままだが、今度は比較的機嫌の良い、何処か誇らしげな声を口と思われる穴から発した。

(トウダイ?……ああ、灯台か。それで灯りが。それとミルニチカ……アランテスタ?……何処かで聞いたことがあるような……)

「コゾウ、ヘヤモドレ。御主人様ガネカセトケ。イッテタ」

「そのご主人様が僕を助けてくれたの?」

「ソウダ」

「じゃ、じゃあ、一言お礼を言わせてもらえないかな?」

「………」

「お礼だけだよ。命を救ってくれたみたいだからお礼が言っておきたいんだ」

「………」

 ゴーレムのような生物は人間なら顔をしかめるような仕草を見せ、考え事をしているように見えた。

(凄い人間っぽいゴーレムだな……)

「スコシダケ。イイナ?」

「うんうん。ありがとう」

「コッチ」

 そう言ってマリウスについてくるように促すと、階段を降り始めた。

 マリウスも後をついて行く。

「ね、ねぇ。君なんて名前なの?」

「マシナリー。御主人様ニツクッテモラッタゴーレム」

「あ、やっぱりゴーレムなんだ?」

「?」

「いや、帝都の学院にいるゴーレムよりも全然人間っぽいなと思って」

「トウゼン。御主人様ノマリョク。ガクインノハルカウエ」

 自分の主人の話にはやけに自慢げな口調になるマシナリー。

 しかしこのマシナリーの出来映えを見ていると、学院の遙か上のレベルにいるという御主人の実力は本物のように思われた。

「へぇ~遙かに上ってどれくらいなんだろ?」

 寝かされていた部屋のある階を過ぎ、さらに3階ほど降りたところで、会話を遮るようにマシナリーは足を止めた。

「ココ」

 そこには質素な木製の扉が立っていた。

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