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第23話

「やっぱり神野だったかー」

「なんで……」

「なんとなく見てりゃわかる」


 俺、そんなにわかりやすい人間だったのか……?

 神野にまでバレてたら……。

 恐ろしい仮定に背筋が震える。


「昨日なんか、まさに『THE 青春』って感じで良かったぜ」

「は?」

「お前、神野さんのことを助けたんだろ? これは惚れるまでいってなかったとしても、かなりの好印象を抱いているに違いない」

「それ、勘違いする男子の思考じゃねぇか。……あれ?」


 そこでふと、九郎の言葉に違和感を抱いた。

 先日の神野のキーホルダーを探すのを手伝った一件。それは九郎には話していないし、知る由もないことのはずだ。


「なんでお前、それ知ってるんだ?」

「あ? そりゃ見てたし」


 何の動揺も焦りもなく、九郎は言い切る。知っていて当然のような口ぶりですらあった。


「え、見てたって……」

「えーえー、見てましたとも。猿も木から落ちるところまで一部始終」

「な、な……」

「あの公園、図書室から見えるんだよ」


 簡潔な理由の説明をして、卵焼きを口に放り入れる。何を言っているのかわからないほどに、俺は困惑していた。

 コウエン、トショシツカラ、ミエル。


 ……。

 …………。


「おーい、孔人くーん」


 公園、図書室から、見える。


「おーい」

「あっ!」


 ハッと正気に戻ると同時に、九郎の言葉を理解した。


「図書室からあの公園見えるのか!」

「だからそう言ってるんだよ!」


 スパーンと頭をはたかれた。


「……はっ! 思わずツッコミに回ってしまった……」

「そうか、そういうことだったのか……」

「まだやってんのかぁっ! って、これ以上オレにツッコませるなっ! オレは基本的にボケ担当なんだよ!」

「ツッコミ? ボケ担当? 一人で何言ってんだ?」

「唐突に冷静に戻るなぁっ!? このままだとオレがセルフでボケてツッコんでる痛いやつだろ!」

「間違ってないし」

「間違ってるよ! 何なら最初の孔人の理解力が一番アウトだ!」

「む……」


 それを言われるとこっちも弱い。


「好きな女の子のために奔走する姿、なかなかカッコよかったぜ」

「言葉と裏腹にバカにしてないか、お前?」

「よし、ならやることは決まったな」

「はぁ?」


 九郎は両肘を机につけ、両手を組んで口元を隠す。今にも何か重大な会議を始めそうなポーズだ。


「プロポーズ大作戦だ」


 何言ってるんだこいつ。

 てかなんでプロポーズ? いろいろ過程が飛んでない?


「……てのは冗談で」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 流石の九郎も唐突に何かしようなんて――。


「デートだ」

「冗談じゃない!?」


――――


 九郎は言った。『オレが二人にちょっと話つけてくる』と。

 そう言って数十分後には、放課後の約束を取り付けてきたことを連絡してきた。一体何をどうやったんだ、九郎。

 ……というわけで、九郎と神野、そして沢上エリの四人で放課後に遊びに行くことになったのであった。うん、やっぱりよくわからない。


 駅の改札前は待ち合わせをする人々で賑わっていた。

 すぐ近くに大きなデパートがあって、行きやすいように入り口と駅が繋がっている。多くはここへ遊びに行くのだろう。

 腕時計を見ると時刻は十六時をまわったところ。平日なのを考慮すると思ったよりも時間はあるな、と思った。


「お金足りないから、そこでチャージしてくるね」


 と、沢上は改札の手前にある精算機を指差す。


「あ、じゃあ……」


 と、ついて行こうとする神野を沢上が左手で制した。


「いいよ、先行ってて。ちょっと時間かかりそうだし」


 確かに沢上が最後尾についた精算機の列は、タイミング的なものも災いしてちょっとした長さにまで達していた。


「うん、わかった」


 九郎はさっき腹痛を訴えてトイレにこもり、俺と神野だけが先に改札を出るという形になった。

 目の前を歩く神野の髪がゆらゆらと横に揺れるのを眺めながら、ポケットの中に入れていたICカードを取り出す。

 まさにICカードを通し、ピッと鳴ったその瞬間だった。

 もう一方のポケットに入れていたスマホのバイブレーションが作動して、太腿の辺りに細かい振動が伝わってくる。


「ん……?」


 とりあえず改札から少し進んでスマホを取り出すと、明るく点灯している画面には、九郎からのメッセージが表示されている。


『やばえ』


「は?」


 やばえ? 何それ?

 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされそうになっていると、もう一度振動した。

 次のメッセージが表示される。


『ヤバい』」


 なるほど、誤字である。しかし何がヤバいのかさっぱりわからない


『どうした』


 俺がそう送ると即座に既読が付き、一分と経たずに九郎の返信が返ってくる。


『お腹痛い。トイレから出られない』


 ハッとなって改札の中にあるトイレの方を見る。もちろんそこに九郎の姿はなかった。


『九郎くんは無理です。もうおうち帰る』


「はぁっ?」


 目を疑った。奴の言っていることは本当に突拍子がなさすぎて、俺の理解の範疇を大きく超えていた。


『お前何言ってるんだよ?』

『頑張れ』


 その直後に筋肉ムキムキのマッチョマンが雄叫びを上げているスタンプが送られてくる。

 思わずスマホを地面に投げつけそうになる。


 まさかこいつ……。

 嫌な予感が胸をよぎる。

 そしてそれは見事に的中した。


「エリ!?」


 神野の声が上がる。画面から目を離して精算機の方へ向けると、沢上は手を合わせながら頭を下げていた。


「ごめん! 今日バイト入ってたの忘れてた!」

「えっ!?」

「鷺坂も来るだろうし、三人で楽しんで来てね!」

「いや、九郎は――」

「ま、待ってよー!」


 神野の呼び止めようとする声もむなしく、沢上はそのまま背を向けてホームへと走っていってしまった。


「エリ……」


 伸ばした手が空中でブラブラと揺れている。

 そして苦笑いを噛み殺しながら、ぎこちない動きで俺の方に向き直った。


「鷺坂くんは……?」

「…………」

「そ、そっかー……」


 これってもしかして――。


「騙された?」

「え?」

「あ、いや、なんでも」


 九郎、お前は昭和のラブコメの発想しかできないのか。

 こうなってしまったら状況は嫌でもわかるが……。


「ど、どうする……?」

「せっかくここまで来たんだし、行こう。神野が嫌じゃないなら、だけど」

「ううん! ぜんぜん嫌じゃないよ!」


 ほっと胸を撫で下ろす。これで断られたら飛んだ恥さらしも良いところだ。


「そっか。ならよかった。……あ、ちょっと待って」

「うん?」


 スマホの画面を何回かなぞり、またスリープに戻してからポケットに入れた。


「……よしっと。ごめん、お待たせ」


 ささやかな、本当にささやかな復讐である。


――――


「あいつら上手くやってるかなー」

「あんた、結構……」

「ん?」

「姑息だよね」

「あはは、そんなこと言われても……、あれ、なんかへんな」

「……」

「…………」

「………………っ!」


「あの野郎っ!」

「どうしたの?」


「オレをクラスグループから追い出しやがったなっ!?」


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