六話
「光……そろそろ離したら?」
「春野先輩こそ、いい加減離れてもらえないですか?10㎞ほど」
ひんやりとした空気が、びりびりと震えながら俺の首筋をなめる。
季節は夏で、この部屋はそこまで冷房が効いているわけでもない。なのに、震えが止まらなかった。それに、先ほどから汗もとめどなく出てきている。汗を聞くような室温ではないし、さきほどから一歩も動いていないのに。
「と、とりあえず二人とも落ち着いて……」
「「あ?」」
……無理だ。俺には不可能だ。この二人、俺の手の届かないところまで行ってやがる。その証拠に、俺をにらむ四つの目は鋭く光り、今すぐにでも切り刻む準備は出来ているとはっきり告げている。
小刻みに震える体は、震え上がる体はすでに生命活動を終えようとしており、次第に呼吸が浅くなった。
どうしてこうなった……俺はいつも通り、夏花や冬乃とじゃれていただけなのに。最近は、それすらもまともにできていないのに。陸上の大会とか、滅べばいいと思う。いや、それに向かって努力している夏花は最高に天使なので、やはり滅びるな。せめて俺の日常生活に支障の出ない程度に規模を縮小してくれ。そろそろ俺の人生に必要不可欠な夏花分が不足してしまう。
と、まあそんな感じの現実逃避を駆使して目の前に広がる無間地獄をさらに100倍にしたような地獄、JKのガチ喧嘩地獄からは目を背けようとするものの、両腕がつかまれているので意識をトリップさせることもかなわずできるだけなにも考えないように前を見つめていることに全力で努めよう。
未だ俺をはさんでにらみ合う二人は、はっと思い立ったように俺の方を向いた。
「……じゃあ、先輩に決めてもらいましょうか」
「秋都、どっちに腕をつかまれていたいか、選んで」
真剣なまなざしが、俺を突き刺す。正直言って、どちらにもつかまれていたくないのだが、そんな洗濯をすればさらに状況が悪化することは目に見えている。ならば、どちらかを選ぶ必要があるのだが、果たして一体、どちらを選ぶのが正解なのか……。
「質問を変えます。先輩は、私と春野先輩、どっちのおっぱいの方が好きですか」
何も答えない俺にしびれを切らしたのか、郡山はさらに爆弾を投下してきた。
普段から妹たちとのじゃれ合いにおいて胸に腕が振れるくらいはよくあるので別段気にしていなかったが、そういえば先ほどから郡山のたわわに実った胸と、それよりも若干主張の弱い雅の胸が、俺の上腕二頭筋を優しく包み込んでいた。
くそう、これがただたんに胸の大きさの好みヲ答える問題ならば答えやすかったものの、この質問ならばそうもいかない。なぜなら、はじめから「どっちの」と聞かれているからだ。そこに「大事なのは大きさじゃなくて、だれのおっぱいかだ」という回答も、「夏花と冬乃の同率一位だ」という世界平和をもたらしてまいそうなパーフェクトアンサーも模範解答としては存在していない。
正直に答えるよりかは、より被害の少ない方を選ぶべきだろう。ならば、答えは一つ。
「郡山のほう……かな」




