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僕らの話

「うーみだー!!!」


 夏花(なつか)が二つの果実を揺らしながらそう叫んだ。そのまま、砂浜から水面へとダイブし、一人で無限にはしゃいでいる。


「まさか、秋都(あきと)くんが海に行こうなんて言い出すとはね」


 俺の横で、膨らんだ浮き輪をもって氷堂(ひょうどう)先輩が言う。


「俺にも色々あったんで」


今日は、学校の近くの海に来た。生憎にも空は灰色に染まっているが、人も多く、気温も高い。絶好のとはいいがたいが、なかなかの海日和だ。


「お兄ちゃん、行こ?」


 夏花に続いて更衣室から出てきた冬乃(ふゆの)が、俺の腕をぐいぐいと引っ張る。その仕草が可愛すぎて、体はいとも簡単に海への一歩を踏み出していた。

 郡山(こおりやま)(みやび)は、まだ着替えをしているようだが、氷堂先輩もいるので問題はないだろうと思って、冬乃と共に夏花のもとへと走る。


「それ!!」


 接近する俺たちに気づいた夏花が、潮水をかけてきた。それを避けるために、冬乃は俺の腕に抱きついて、そのまま砂浜に倒れこむ。


「冬乃、大丈夫か?」

「平気」


 下敷きになったのは俺なので、冬乃に大したダメージはないだろうが、真っ白な髪に砂がちらほらと付いている。それをはらって、海へと入った。


「冷たいな……」


 日の光もないので、水温は低かった。冬乃も寒さで凍えているのか、俺への密着度が増している。


「夏花、よく平気だね……」


 声が震えるほど寒がっている冬乃をよそに、夏花は元気一杯だった。短い黒髪はしっとりと濡れているが、ずっと笑顔である。


「あたしは寒さには強いんだ」


 夏花が威張って言う。


「大会前に、風邪ひくなよ」


 そうなれば、俺が献身的に看病するだけだが、万が一本当に病気にでもかかってしまえば、三年間夏花が頑張ってきたことが、全て無駄になってしまう。それは、兄としては見ていられないので、そうなる原因はなるべく潰していきたい。


「大丈夫だよ、夏花なら。私もついてるし」


 なおも俺の体に引っ付いたまま、冬乃が言う。

 あれ以来、冬乃はより一層マネージャー業を頑張っているらしい。そんな冬乃がいるのなら、何も問題はないだろう。

 夏花、冬乃と並んでゆっくりと泳いでいると、


「おーい、ビーチバレーするよー!!」


 濃紺のビキニを身にまとって、砂浜から手を振りながら雅が叫んだ。脇にはボールをはさんでいる。その奥を見ると、郡山と氷堂先輩が笑顔で話している。


「君は告白しなくていいのかい?」


 あまりにも距離が離れているため、どんな会話をしているのかまではわからない。


「私は、負け戦はしない派なんですよ」

「さすがに今告るのは無謀だと思うけどさ」

「冬乃ちゃん、結構派手にぶちかましてくれたみたいですからね」

「義妹の強み、だよね」

「それどころか、すでに義妹ですらないんで、あの二人が付き合っても、法律的にもなんの問題もないってところが……ね」


 しかし、郡山がうつむいた所を見ると、あまり楽しい話ではなさそうだ。


「まあ、気長に待ちますよ、私は。隙を見て既成事実をつくったり、攻略方法は一敗ありますからね」

「それがただの例で、実行案じゃない事を祈っておくよ」

「そういえば、先輩こそもういいんですか?」

「僕も、隙を見て頑張るさ。まだ、直接フラれた訳じゃないしね」

「氷堂先輩」

「ん?」

「キモイです」


 会話を終えたのか、郡山は苦虫を嚙み潰したような顔をしている先輩から離れていった。


「行くよー!!」


 雅の声で、ビーチバレーが始まった。



 日も沈み、ほとんどの客が帰っていった海に、青春研究部と夏花と冬乃はまだ残っていた。理由は、花火をするためである。

 ろうそくの火に、近くのコンビニで買ってきた手持ち花火を近づけると、先から火花が勢いよく噴射した。それを振り回して、夏花ははしゃいでいる。


「あいつ、絶対電車の中で寝てるな……」


 間違いなく、俺が背負って帰るルートである。


「夏の終わりって感じがしますよね、花火って」


 いつの間にか、隣に郡山が来ていた。


「終わりどころか、俺らの夏が始まったの今日なんだけどな」

「夏って、恋の季節ですよね」

「うんお前やっぱり俺の話聞いてないな?」


 デジャブを感じる。


「それが終わりって、なんかJKとしては悲しいというか」

「だから始まったばっかだからな?」

「という訳で先輩、明日は私とデートをしましょう」

「お前それ言いたかっただけだろ」

「だって、これ言っとけば誘ったけどフラれただけだから夏を謳歌しようとしていなかったわけではない感出るじゃないですか」


 俺の頭がおっさん化しているからか、郡山が何を言っているのかさっぱりわからなかった。


「てか、明日は無理だ」

「私とのデートだからね」


 冬乃が割り込んできた。


「くっ、この小娘、一つ屋根の下なのをいいことに……」


 郡山が歯ぎしりをして、冬乃をにらんだ。しかし、冬乃は一歩も引く気がないようだ。


「お兄ちゃんは、私のものだから」


 冬乃が、微笑んだ。その笑顔に、思わず心臓が高鳴る。


「あ、今先輩妹に欲情しましたね」

「してねーよ!!」


 というか、書類上では妹ではないのだ。俺がいくら性的に興奮したところで、なんの問題もないのではないだろうか。


「お兄ちゃん、あっちにラブホが……」

「行かないよ?お兄ちゃんまだ童貞捨てる気ないからね?」

「じゃあ、その一歩手前までなら……」

「何がじゃあなのか分かんねーよ!!」


 いくら書類上での関係がないと言っても、俺からすれば妹なのだ。なにこの葛藤。しんどいんだけど。


「兄ちゃんの童貞は、あたしのものだからな?」


 少し前まで離れたところで花火をしながら走り回ってい夏花が、背中から抱きついてきた。


「お前は完全にレッドゾーンなんだよ!!」


 さすがにどんな理由があっても実妹は抱けない。


「そろそろ、私も名のり出た方が良いかな?」


 その夏花の後ろから、雅が声を上げた。


「君俺にフラれてるよね?何なの?馬鹿なの?死ぬの?」

「えへへ」


 可愛く笑ったところで、何も心に響かないのだが。やはり、妹が最高と言うことか。


「ここらで僕も……」

「それだけは絶対にNGですから!!俺異性愛者ですから!!」


 というか先輩もヘテロセクシャルのはずなのだが。

 まったく、何でこんなにも馬鹿ばかりなのだろうか。これじゃあ、日常に退屈しようがないじゃないか。


「よし、最後に打ち上げ花火をしようか!!」


 先輩が、コンビニの袋から、円筒を取り出した。それに火をつけると、勢いよく火の玉が飛び出て、夜空に、咲いた。


「綺麗……」


 また一発、打ちあがって、全員が、感嘆の声を漏らした。


「夏の終わりって、感じだね」

「始まったの今日ですって」


 氷堂先輩に、郡山が噛みついた。


「お前もさっき言ってただろうが……」


 それを横で眺めつつ、砂浜に寝ころんだ。花火がよく見える。


「楽しいね、こういうのも」


 その横に、雅が座って、そう言った。


「まあ、青春て感じでな」


 俺には、あまり縁のない言葉のような気もするが、青春研究部の部員としては、常に間近に置いておくべきなんじゃないだろうか。


「また、みんなで来たいね」

「そのうち、な」


 打ち上げ花火が終わり、後片付け。


「写真撮りませんか?」


 それも終わったあと、郡山が言い出した。

 全員が賛同したのち、氷堂先輩が、スマホのカメラアプリを開いて、写真撮影の準備をする。海を背景に、全員が横並びになった。左から、先輩、郡山、冬乃、俺、夏花、雅。

 三回ほどパシャりとシャッター音が切られると、自然と全員の距離は離れていき、それぞれが荷物を持って、駅へと向かった。


「明日は、学校での部活だから」


 氷堂先輩に釘を刺され、仕方なく、頭の中の予定表に明日の分を書き込む。

 夏花を背負って、冬乃と手を繋いで、雅が横に居る。

 そんな当たり前が、幸せだった。だから、壊れるのが怖かった。それはきっと、間違いじゃないんだと思う。それでも、そのままじゃ前に進めない。ちゃんと気持ちをぶつけあうことも、大切なのだ。必要なのだ。

 先輩からLINEで送られてきた、みんなで撮った写真を眺めて、思う。

 青葉にはなれなくても、俺は俺として、青春を生きられる。幸せに生きられる。夏花がいて、冬乃がいて、雅がいて、先輩がいて、郡山がいる。それが、俺にとっての青春なのだろう。

 だから、夏休みを全力で楽しもう。兄として、青春研究部の部員として、一人の人間として。

 いつか、この日々を思い出して、笑えるように。

 この作品は、もともと新人賞用に書いていたもので、今後も連載は続けていきますが、ここまでで新人賞の原稿は終了となります。よければ、ここまで読んだ感想を聞かせてください。


 他の作品もあるので、更新ペースが落ちてしまいますが、これからもよろしくお願いします。

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