十九話
「「子供だから」?「正しい判断ができない」?ふざけるのもいい加減にしろ。冬乃は、誰よりも大人だ。朝もすぐに起きてくれる。陸上部のマネージャーも、頑張ってやっている。毎日家族の分の夕飯を作っている。自分よりも他人のために頑張れるあいつを、何も知らないお前が、そんな言葉で汚すんじゃねぇ」
心の底から、言葉がすらすらと出てくる。何も考えなくても、ひっきりなしに、言葉が連なって、早川さんを襲った。
「……」
その言葉の渦に巻き込まれて、早川さんは黙り込んだ。
「冬乃は、どこですか」
早川さんがここにいるということは、冬乃もここにいる可能性が高い。少なくとも、今日の昼には一緒にいたのだから、居場所くらいは知っているはずだし。
「……君には渡さない」
ぽつりと、早川さんは漏らす。
「あの子は、私の娘だ。ぜっっっっったいに、誰にも渡さない……!」
底知れぬ気迫を感じる。圧倒的なまでの迫力、熱意、覚悟──それらが混ざったような空気に、毛が逆立つ。
しかし、ここで俺が諦めてしまってはいけない。というか、俺が冬乃を諦めてしまって、いいはずがなかろう。
「どんな理由であれ、あいつの意見を無視して勝手にあいつの人生決めていいはずがないですよ。冬乃は、冬乃なんですから。冬乃なりの歩き方ってやつを、ちゃんと見守ってやりましょうよ」
兄として、俺ができることは何でもします。冬乃が幸せになれるかどうかの保証はないけれど、其れの見つけるためのサポートは、俺がちゃんとします、と付け加える。
だんだんと、早川さんの顔が暗くなっていく。
「……あの子は、私のものだ!!君のような子供になにが分かる!!」
顔を真っ赤にして、早川さんが叫ぶ。全く、赤くしたり黒くしたり、忙しい人だ。
「分かりませんよ、あなたのことなんて。でも、冬乃のことは、誰よりも分かっているつもりです。僕は、お兄ちゃんですから」
これ以上話していても、埒が明かなそうだったので、俺は息を吸いこんで、叫ぶ。
「冬乃―!!どこだー!!」
俺の声に、早川さんはピクリと反応したが、それだけだった。
たったったとリズミカルな足音が聞こえてきても、早川さんはもはや止めようともしなかった。
「お兄ちゃん!!」
ふわりと、冬乃が来ている服のスカートが浮いて、その上から伸びた細い腕が、俺の腰に巻き付いてきた。
それを、優しく抱きしめて、頭を撫でてやる。
そのまま、黙って冬乃を連れて外に出た。




