十三話
階段を降り、左に曲がると中庭に出る。昼休みにはリア充の巣窟となる場所だが、正門の方から「おはようございます」と声が聞こえてくる時間帯である今は、誰もいなかった。貸し切り状態である。
その真ん中に、あるベンチに、並んでそこに腰かけた。
「……」
「……」
そこでお互い気まずくなってしまって、数分の間沈黙がながれる。
今は、時間に余裕のある放課後ではない。あと数分すれば、ショートホームルームが始まるだろう。だから、話は速めに終わらせなければならないはずなのに、どうしても、あと一歩が踏み出せなかった。
今回、雅を呼び出したのは俺だ。俺から話始めなければ、なにも始まらない。そんなことはわかっているのに、口は真一文字に結ばれたまま、ピクリともしない。結局、俺は俺のままなのだ。最後のピースだけ、いつもうまくはめられない。電池が切れたように、体が上手く動いてくれない。
今から俺がしようとしているのは、紛れもなく、どう頑張ったところで、雅を傷つけることになるだろう。それが、どうしようもなく、怖かった。
雅との関係が変わってしまうのが。壊れてしまうのが。とめどなく襲ってくる恐怖を前に、俺はなにも出来ず、立ち尽くしていた。
そうしているうちに、チャイムが鳴った。それが鳴り終わるのをしっかりと待ってから、
「帰ろっか」
雅は小さな声でそう言った。しかし、俺はそれを拒否するように首を振る。今でなければ、また逃げてしまうかもしれない。今じゃなきゃ……。
立とうとする雅の手を、掴んで──
「俺はお前と付き合えない」
はっきりと、俺はそう言った。
勢いに任せて言った俺の言葉に、雅はたいして驚いた様子でもなく、俺に背を向けたまま、「ははは……」と乾いた笑い声をあげるだけだった。
「俺は、お前を好きになれない」
申し訳なく思いつつも、言葉を紡いでいく。
雅は黙って聞いているだけだった。
「俺は、夏花が好きだ。冬乃が好きだ。だから、他の誰かを好きになんて、なれないんだ」
残酷な真実を雅に突き付けていく。
「だから……ごめん」
その瞬間、雅は俺の手を振りほどいて、校舎へと走っていった。
その背中を、俺は見守るしかできなかった。




