十二話
俺は、他人に合わせるということを知らない。誰かのことを考えるということを知らない。自分勝手な、自由な幸せしか、俺は知らない。俺には、青葉のような周りに合わせるような生き方は、あまりにも遠すぎる。そのうえで青葉は周りの人間とは違い、俺のような教室ではだれとも話さないような奴とも平気で話してくれる。別にそれ自体がうれしいとか、そういうことではないのだが、しかし、周囲と同じ空気をまといながら、会話の途中で一人だけ抜け出して、俺との談笑に応じるというのは、なかなかに頭のおかしい行為ではないのだろうか。いくら、俺が中学校の時からの知り合いだと言っても、青葉がクラスのトップカーストに居座るようになった中学二年以前の友達だからと言っても、ほとんどが初めて顔を合わせるような奴らは俺と青葉が友達だという事実を知らないのだから、急に俺を無視するようになっても、なんの問題もないだろうに、未だにしつこく話ができる、そんな間柄の人間である理由が、俺にはわからない。
けれど、一つだけ分かることがある。
きっと、青葉は主人公なのだ。地球という星において、日本という国の中で、この学校の生徒として、彼は主人公だからこそ、誰にでも優しくでき、笑顔を振りまけるのだ。
そんな俺とは正反対な生き方をする青葉を羨ましいだの言うつもりはないし、俺はあんな生き方はそもそも望んでいないのだが、一つだけ羨ましいと思う点がある。
青葉は、誰からどんな思いを抱かれようとも、絶対に、真っ向から受け止めるのだ。
例えば、去年同じグループに所属している女子、もっと言うとクラスのお嬢様である女子生徒から告白されたとき、青葉は、はじめに「ありがとう」と言ったらしい。自分を好きになってくれて──その思いを伝えてくれて、ありがとう、と。結果としては青葉はその子をフッたのだが、しかし、その後も彼女とは、クラス替えの時まで仲良くやっていたらしい。クラス内大いに沸いた出来事だったから
俺には、そんな真似はできない。いくら仲がいいとはいえ、それを真っ向から受け止めるくらいなら、相手の行動を封じに出る。雅に対してそうしたように。だって、告白なんてものをされてしまったら、今までと同じようには過ごせないだろうから。お互い気まずくなるだろうし。
だからこそ、青葉が羨ましいのだ。受け止められる青葉が。なにも変わらず、告白というイベントが起きる前と同じように笑い合える青葉が、羨ましい。一体、どんな魔法を使えばそんなことが可能なのか、俺にはちっともわからない。
でも、一つだけ分かったことがある。手を伸ばさなければ、何も変わらないのだ。青葉は、彼女と、今までと同じ関係でいたいと手を伸ばしたから、それができたのだろう。氷堂先輩も、ずっと追い求めていた「青春」というものに手を伸ばしたからこそ、ついに雅への告白へと踏み切ったのだ。
だったら、雅が俺に告白しようとしたのは、他でもなく、俺との関係を、幼馴染から変えたいと、切に願ったからなのではないか。もしそうなら、それを無視し続けることは、絶対にダメだろう。例え雅と俺の目的が違っても──明日、いつものように一緒に登校できなくなったとしても。雅を傷つけるような結果になるとしても、雅の伸ばした手を、つかまなくてはならない。きっと、それが好きになられた側の責任であり、青春を生きる人間の務めなのだ。
生徒会室から教室までは、少し距離がある。とくに、行きは下りだった階段が帰りには上りになってしまうので、息が切れているのも仕方がないことだろう。
「雅、いるか!?」
だから、雅のクラスの前にたどり着いたころには脳へと回す酸素が完全に足りておらず、バカでかい声になったしまった。空気を震わせる労力を半分ほど脳に使っていれば、いきなりやってきた息を切らしている違うクラスの人間が急に叫びだしたという状況に若干引いている教卓に腰かける男子生徒から白い目で見られることもなかったのかもしてない。
しかし、俺から一歩離れた生徒たちとは反対方向に進む生徒の影もあった。
「……恥ずかしいんだけど」
雅は顔をほんのり朱に染めながら、俺の隣までやってきた。
その手をつかんで、俺はまた駆け出す。
今からする話は、こんなところでするべきではないと思ったから。




