十話
「そんなに息切らして、どうした?」
青葉が呆れながら近づいてくる。教室まで来れば、ひとまずは安心だろう。雅とはクラスが違う。予鈴まで時間があるとはいえ、わざわざこちらまでは来ない筈だ。前に一度、扉の前まで来ていたから、確証があるわけではないけれど。
「隈もできてるな」
青葉は俺の顔にずんずんと近づいてきて、それだけ言うと一歩下がった。ついに我が友人はホモになってしまったのかとも思ったが、きっと多分絶対違うと信じながら、俺は話始める。
「実はな……」
昨日の昼に起こった出来事からついさっきの告白未遂までのことを話すと、ふむふむと頷きながら、
「大変だな、お前も」
と、他人事のように返してきた。実際他人事なのだから仕方ないのかもしれないが、はじめにこの話を始めたのは青葉なのだから、ちゃんとしたコメントをもらいたかったところだが、所詮他人事は他人事。青葉に深入りするのは、深入りさせるのは、俺にとっても、青葉にとっても、あまりいい結果を招かないだろう。
「まあそれなりに」
「だから言ったのに」
「なんの事だ?」
青葉の言葉の意味が解らず、聞き返した。
ため息を吐きながら、青葉は窓の方へと目をやった。木々のざわめきがうるさい。窓は閉まっているのに。風がそれだけ強いのだろう。
「春野のこと、ちゃんと考えてやれって」
「ああ……」
今朝の告白は、そのツケ言うように、青葉が目線を鋭くした。
「ずっとこのままだったら、いつかこんな日が来るってわかってたから、忠告したんだけどな」
「……」
その言葉に、何も言えなくなった。だって、この結果を招いたのは紛れもなく、自分なのだから。青葉という人間は、少なからず俺を理解している。その青葉の忠告を、聴き洩らしたのは、真摯に受け止めなかったのは、どう考えても俺に責任があるだろう。
俺が、返す言葉を探していると、
「おーい、日山ー。春野って子が探してたけど」
突如、クラスメイトに名前を呼ばれた。普段あまり……というか、全く話さない生徒だ。ちなみに俺は向こうの名前を覚えていない。覚える必要がないのだ。関わりがないから。
「悪い。青葉、あとは任せた」
それだけ言い残すと、俺は急いでに教室を出た。




