五話
今日は日曜日──冬乃の意向を伝えたものの、父は頑なとして譲らなかった。
「とにかく、一度会ってみたらどうだ」
「それすらも冬乃は拒否してる」
聞く耳を持たない。頭ごなしに押し付けるだけで、何一つ分かろうとはしてくれなかった。
隣で電話を聞いていた冬乃は、諦めたようにこくりと頷く。何を言っても、無駄だとこの時点で俺たちは存分に感じていた。
妹の願いすら叶えてやれない自分の無力さが、真底嫌になる。
「分かった、会うだけな……」
俺は、そう答えるしかなかった。
午後三時に駅前の喫茶店。それが指定の場所だった。日曜日にはそこそこ人が集まっているような、レンガ風の壁がおしゃれな、そんな喫茶店だ。待っている間に、俺はブラックコーヒーを、冬乃は甘いカフェオレを注文した。
カランコロンという入店を知らせる鈴が鳴るたびに、冬乃の肩がピクリと動くのが分かった。緊張しているのだろう。そのたびに、俺は冬乃の背中をさすった。。それをしてやると、冬乃は少しだけ落ち着きを取り戻すから。
店についてから三度目の鈴の音。背の高い男が、こちらに向かってくる。パリッとしたスーツが、大人の風格を漂わせ、丁寧に、だけどもどこか威圧感のある態度で、腰を折り曲げた。
「こんにちは」
ニコリと微笑んで、男は冬乃の前に座る。その瞬間に、店員にアイスコーヒーを注文していた。
「君が秋都くんかい?」
いの一番に俺に向かって、そう言い放った男は、どこか冬乃に似ている。目元や、優し気なその微笑みは、間違いなく冬乃の父親だと思えるほどにそっくりだ。しかし、冬乃とは違って、どこか迫力がある。
隣を見ると、小刻みに小柄な体を震わせている冬乃がいる。初めての父との対談なのだ。緊張というより、恐怖を感じているようだった。
「初めまして。冬乃の兄の日山秋都です」
冬乃の家族は俺。お前は他人だと、敵意を込めて頭を下げる。それに習って、冬乃も首を少し下に向けた。
「もう一人、きょうだいがいると聞いていたんだが……」
「長女は部活動に行っています」
今頃、夏花はグラウンドを走り回っているだろう。元気に、たくましく、今日も記録更新を目指して、地面を蹴っているはずだ。夏花はついていきたいとは言わなかった。自分はいても何もできないからと、俺にすべてを任せて、今日も家を出ていった。
店員が運んできたアイスコーヒーを一口含んで、男は冬乃の方を見た。
「私は、冬乃の父の早川 雪也だ。聞いていると思うが、冬乃を引き取りたくて今日はこの場を設けさせてもらった」
男は静かに、そう言い放った。




