三話
雅は黙って、俺の話を聴いてくれた。俺と冬乃の血が繋がっていないことはもちろん知っているので、昨日父から電話がかかってきたところからスタートだ。
語り終えるまで、そう長くはかからなかった。大体5分くらいだろうか。昼休みが終わる15分前には、俺は全てを吐ききっていた。
自分が今、何を思っているのか、何をすべきなのかが分からないと言っても、決して雅は笑わなかっ。それどころか、それを肯定するように、コクリと頷いたのだった。その何気ない行動に、肩の力が抜けていく。
「秋都はさ、冬乃のこと好き?」
「世界一愛している自信しかない」
即答した。
「だったら、それが答えでしょ」
「どういうことだ?」
「秋都は冬乃が好きだから、一緒に居たいんだよ」
何を当たり前のことを言っているのだろう。
「家族でいたいんだよ。ずっと」
雅の言いたいことが分かった気がする。冬乃が父親に引き取られれば、当然俺と冬乃は、家族ではなくなってしまう。一緒にいる時間がなくなってしまう。俺は、それを恐れているのだと、雅は言っているのだ。
「でも、親が決めたことには、私たちは逆らえない」
俺も冬乃も、まだまだ学生だ。親同士が話し合って決めたことに、どれだけ俺たちが抗っても、それが功を成すとは思えない。まして、子供を置いて海外に飛ぶような親だ。俺が何をいったところで、その声は届かないだろう。
「だから、秋都は今何をすればいいのかわからないんだよ」
道は八方塞がり。どこにも抜け道なんてなくて、つまり、何をすればいいのかではなくて、何もできないという言い方が正しいだろう。
「でも、何もしないでいる気はないよね?」
もしこのまま俺が何もせずにいたら、冬乃は間違いなく引き取られていく。
「当たり前だ」
手が震える。冬乃がいない日常が怖いのだ。
「だったら、まずは冬乃に伝えようよ。冬乃がいやだって言ったら、秋都のお父さんも考え直してくれるかも」
雅の考え以外に、何もいい案は浮かばなかった。家に帰ったら、さっそく伝えよう。ちゃんと、冬乃の気持ちを聞くのだ。冬乃の答えを、受け止めなければならない。冬乃が望むなら、俺は……。
「秋都」
雅が、いつの間にか俺の後ろに来ていた。
「何があっても、大丈夫。秋都なら、きっと」
そして、後ろからそっと抱きしめられた。布越しでも、二つのマシュマロのようなものがあるのが、はっきりと分かる。温かい。物理的にも、心も。
「私が、ついてるから……」
耳元で、雅はそうつぶやいた。
背中を押されたのだ。なら、それには応えなければならない。
兄として、幼馴染として。期待を背負ったのなら、どこまでもやって見せる。親なんて、もろともしない。してはいけない。
この温かさを胸に、覚悟を決めようじゃないか。恐怖をかき消して、前へ進め。




