二話
ため息が出た。起きてからもう8回目だ。教室のど真ん中に置かれた机からは、どこを見ていいかも分からず、目を瞑って机に突っ伏す。やる気が出ない。ため息は出るのに。どうせなら、反対にしてほしい。
「朝からダルそうだな」
「それは多分いつもだ」
珍しく俺より遅く教室に来た青葉は、一言だけ漏らして、視界の後ろへ消えていった。
結局、冬乃に何も伝えぬままで、一晩が過ぎた。夕方に眠ってしまった事もあって、夜は一睡もしなかった。しかし、どれだけ考えても、何かわからないのだ。胸の中に渦巻く、この感情の正体が。もやがかかったように、そこだけに触れられない。手を伸ばすことすらできずに、俺はひとりで夜を明かした。
誰かに相談できるわけもなく、そのまま授業が始まる。一限二限三限四限と先生の言葉を右耳から左耳に流し、昼休みになった。
教室の楽し気な雰囲気に嫌気がさして、早歩きで廊下を歩く。行き先は部室だ。雅や郡山がいるだろうが、弁当を食べているはずなので、教室ほどノイズが聞こえてくる事は無いだろう。
「あ、秋都」
しかし、教室に居たのは雅だけだった。
「光は先生に呼ばれて職員室」
俺の顔色から疑問を感じ取ったのか、雅は箸を置いて言った。何という行儀のよさだろう。俺とは大違いだ。一体、どこで道を踏み外してしまったのだろう。
雅の前の席に座り、俺も弁当を広げる。今日は時間があったので、少し手の込んだ料理を作ってみた。味はまあまあおいしくて、夏花や冬乃に好評ならまた作ってみようと思う。
最後の一口を咀嚼して、ゴクリと飲み込む。同じタイミングで食べ終ったらしい雅と目があった。その瞬間、雅は優しく微笑んだ。
「ねえ、秋都」
しかし、次のページで雅が見せたのは獲物を狩る野生の動物の目だった。
「何があったの?」
俺がごまかそうと、絶対に捕まえると、目で語っている。しかしそこにあるのは、やはり優しさだった。俺を楽にさせてやりたいという気持ちが、透けて見える。
俺はここでもため息を漏らした。
「実は……」




