五話
「あー、つかれたー」
ふーっと息を吐きだしながら、夏花は水筒に口をつける。汗をかいた体に、ごきゅごきゅと水分を補給して、満足げな顔つきだ。
「アイス、食べるか?」
手に持った袋の中から、氷菓を一つ取り出し、返事も待たずに夏花に渡す。夏花を待っている間、コンビニで買ってきたものだ。ついでに栄養ドリンクも買ってきた。運動後すぐの栄養補給は吸収効率を上げるらしいから。
「ありがと」
よほど疲れているのか、目がトロンとしている。晩御飯を食べる前に寝落ちしてしまいそうだ。
「あ、そうだ兄ちゃん。おんぶしてよ」
「ああ、勿論いいぞ」
二つ返事で受け入れ、コンビニの袋を夏花に渡してから、膝を曲げる。パクリとアイスを一口ほおばってから、夏花は俺の背中に飛び乗った。やわらかい膨らみが二つ、背中に当たる。いつもお風呂で見ている夏花の胸だ。服を着ていては分からない、豊かに実った二つの果実。ここで欲情するほど俺の兄力は低くないが、気を抜いたらすぐに化けの皮が剥がれそうだ。現役JC、恐るべし。
「兄ちゃんの背中、大きいね」
「兄の背中というのは妹を乗せるためにあるからな」
背中から首筋にかけて、ぴったりと俺にくっついてくるので、夏花の体温がほぼダイレクトに伝わってくる。激しい運動(深い意味はない)の後だからか、燃えるように熱い。
夏花自身も自分の体温の上昇を感じているのか、アイスを食べながら、時折「はふぅ」と生暖かい呼吸をしている。顔を見なくても分かる可愛さだ。
「なんか、兄ちゃんと二人きりなのって久しぶりな気がする」
「家には冬乃がいるからな」
言われてみれば、冬乃と兄妹になってからというもの、夏花と二人で過ごす時間はどんどんと減っていっている。別に俺と夏花、俺と冬乃、夏花と冬乃のいずれかの仲が悪いという訳ではないが、それでも俺が二人のうちどちらか一方とだけいるのも、かなり珍しいことなのだ。家の中ですら、完全な二人きりなど、ほとんどないのだから。それほど我が家の兄妹仲はよろしい。喜ばしいことに。
アイスを食べ終えたのか、夏花は袋の中をガサゴソとあさって、栄養ドリンクを、やはりのどを鳴らしながら一気に飲み干した。
「兄ちゃん、あたし眠っててもいいかな」
「別にかまわんぞ」
人間の体というのは意識のない時は特別重くなるらしいので、それに対する配慮だろう。
枕替わりなのか、俺の右肩に頭を置かれる。
「兄ちゃん、最近冬乃のことばっかりかまってるけど」
ふわぁとあくびを一つして、夏花は息を吐き切る。
「実妹としては、少し寂しんですよー」
と、か細い声で、夏花はつぶやいた。




