三話
「てなことが昔、ありましてね」
昔というには、二カ月は近すぎるか。
「で、秋都のシスコンっぷりに驚いたと」
「妹をこよなく愛してるっていうのはとはあったんですけど、初めてその実態を知ったときはさすがに驚きましたね」
あれはもはやシスコンとかそういうレベルではないだろう。狂気の類だ。なぜ妹ちゃんたちはいまだに一緒にお風呂に入れるのか、不思議でならない。私なんか最後に弟と一緒にお風呂に入ったのは、小学校二年生の時だ。
「という訳で私と春野先輩はライバル、恋敵です」
「結果は両者敗北になりそうだけど」
妹ちゃんには勝てる気がしない。特に、冬乃ちゃんの方。血がつながっていない兄妹とか、何時間違いが起こってもおかしくはない。あの兄妹なら。先輩は一線は超えていないと言っていたが、果たしてそれもどこまで信じられる情報か。
「なので、ここで先輩攻略会議を開きましょう」
つい先日まで、この部活では春野先輩が攻略対象だったんだけれども。
「まず、先輩の弱点を教えてください」
「脇腹と足裏」
「いやそういうことじゃなくて、こういうシチュエーションに弱いとか、そういうの」
「この前、秋都の部屋に妹がメインヒロインの漫画が三作くらい転がってたけど」
「その情報、この場において絶望でしかないんですけど」
なぜ追加でシスコン度の強さを知らなければならないんだ。
「それ以外なら、お兄ちゃんに恋する女の子の漫画とか」
「だから妹はもういいんですって!!」
いい加減泣きそうだ。つけ入る好きが微塵もない。
「あと、氷堂先輩に借りさせられたらしい青春小説」
それはそうでもいい。心底どうでもいい。無駄な情報でしかない。あとで私の脳の容量をちょっと奪ったということで裁判を起こさなければならないレベルでどうでもいい。
「特に、秋都の性癖が分かるようなものはなかったね。多分」
その情報をはじめに提示すべきではないだろうか。
ため息を一つ。
「春野先輩、今のところ勝ち目ないですよ」
私たちが勝てる確率、0に近いどころかどれだけ位を小さくしても、0以外の数字が見当たらない。
まったく、何をどうしたらあんなにシスコンになるのか──ああ、それはこのあいだ直接聞いたか。
春野先輩は、少し考えて、こう言った。
「それでも、とりあえず自分の思いは伝えてみようと思ってる」
その言葉には、その瞳には、ゆるぎない決意がこもっていた。
ああ、こういうのは、苦手だ。私には、どうしても理解ができない。
なんと返そうか言葉を選んでいると、突如、部屋のとびらが倒れた。もともと、立て付けは悪い。それでも、自然に崩れるほどではないはずだ。
霧のような埃に視界を奪われていると、
「秋都!!」
春野先輩は絶叫した。
扉とともに倒れていたのは、見覚えのある背中。間違いなく、日山秋都だった。
春野先輩は、即座に駆け寄っていく。
私は、それを手伝いもせず、ただ突っ立って、見ているだけだった。




