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十五話

 窓からは、西日が差し込んでいた。

 どうせ今から行ったところで、そんなに部活をしている時間はないだろう。倒れたことを理由にして、さっさと帰ろう。カバンは部室に置いてあるらしいので、一度顔を出すことは必須だ。


「あ、先輩、もう大丈夫なんですか?」


 扉を横に開くと、ぱたぱたとが駆けてくる。

 目を細めて、「あとでお説教な」と郡山(こおりやま)を睨み付けると、「ひっ」と音声での回答があった。郡山が犯人で、間違いなさそうだ。


秋都(あきと)くん、あまり無理をしないようにね」


 氷堂(ひょうどう)先輩がカバンを二つ渡してくる。俺のものと(みやび)のものだ。今日は帰れということだろう。

 断る理由もないので、素直に受け取り、一つを雅に渡す。


「じゃ、また明日」

「お大事にね」

「何かあったら飛んでいきますよ!!」


 二人からの言葉を受け取って、赤々とした廊下を、雅と並んで歩く。


「秋都、本当に大丈夫なの?」


 疑われている。なにか大きな病気ではないのか、と。


「何吹き込まれたか知らんが、俺はピンピンしてる」


 どうやら、郡山にはきつめのお灸を据えなければならなそうだ。先ほどの「何かあったら」に説教が含まれるのなら、今すぐにでも呼び出したいくらい。面倒なことになりそうなので、今回はLINEで済ませることにするが。


「明日から、お弁当私が作るから、秋都はもう少し寝てていいよ?」


「嫌だ。夏花(なつか)冬乃(ふゆの)の喜ぶ顔が見れなくなるじゃないか」


 それに、雅の分の弁当を作ることは、俺にとって雅への感謝を伝える手段なのだ。それを奪われてしまっては、俺は雅に何も与えられない。ただ、雅から時間を奪い、苦しめるだけの存在になってしまう。本当は雅には朝食を作るのをやめてもらおうと思っていたのだ。これ以上、俺が雅に頼らないように。雅が、俺から離れられるように。でも、俺たち三人はいっぱいいっぱいだったから、雅に頼むことにしていたが、そろそろそれも卒業しなければならない。なのに弁当を作る役まで奪われては、進歩どころか退化しかしていないではないか。


「本当、無理しないようにね」


 みんな俺が今回倒れた理由を、無理のしすぎによる睡眠不足だとでも思っているのだろうか。本当は両手の可憐な花たちを、夜中まで愛でていただけなのだが。


「お前こそ、毎日俺より早く起きてるけど」


 雅は俺が起きるよりも早く俺の家に来て、さらには俺が弁当を作り始める頃にはすでに朝食はあらかた作り終わっている。一体何時に起きているのだろうか。


「私はもともとショートスリーパーだし、結構早く寝なきゃだから」

「ああ、そういえば」


 雅には、あまり遅くまで起きているわけには行かない理由があるのだ。俺は、それを知っていた。とうの昔に。

 春野家は、家族仲が最悪なのだ。およそ、愛なんてものがどこにも感じられない家。その中で遅くまで起きていると、息がつまるということで、雅は両親と顔を合わせないように、両親が仕事から帰って来る午後10時前には、基本的には就寝している。朝早く起きている理由も、両親が起きる前に家を出たいからだ。どのレベルで仲が悪いのかは、知らないが、顔を合わせるのが嫌になるというのだから、相当なものなのだろう。出来るだけ触れないように気をつけていたのだが、まったく地雷というのはどこに潜んでいるか分からない。

 学校から駅に向かう途中に、踏切が一つあるのだが、その踏切は駅から程なく近く、停車していればすぐに分かる。そして、今はちょうど電車が止まったところだった。


「急ぐか」


 早歩きで行けば、あの電車に乗れるだろう。出来るだけ早く帰りたい一心で、俺と雅は夕日に照らされた街を歩いた。

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