十四話
「死なないで……」
……え?
なに何で俺死ぬことになってんの?いつからラブコメが難病物にチェンジしたの?もしかして俺が気がついていないだけで本当は重い病気で雅はそれを知っていて急に倒れた俺を心配してるとかそういう急展開?ちょっと脳内の処理が追いつかない。CPUの性能不足だ。考えがまとまらなくて、熱が体に籠る。もしかして、俺が倒れたのは寝不足だけではなく、風邪のせいでもあったのではないだろうか。そう思ってしまうほどの疲労感がどっと押し寄せてきた。
そして、俺は一つの結論にたどり着いた。これを導くだけで、頭がズキズキと痛くなる。本格的に寝不足だったようだ。兄は辛いよ。いや、可愛いものを愛でることに辛さは感じないが。俺が呪うべきは、寝なければ疲労を回復できない人体構造だろう。なぜ人生の三分の一を休息に使わねばならんのだ。これが設計上の欠陥以外の何物でもないだろう。
閑話休題。この雅の言葉は、おそらく郡山によるものだ。証拠はない。ただ、なんとなくそう思った。俺が最後に聞いた恋バナの現場。あのあと、郡山がけしかけたのではないか。その意図は分からないが、雅が自発的にこんな勘違いを起こすとは思えない。先輩はそもそもこんな悪戯をするとは思えない。なので、自然と犯人は郡山ということになる。あとで問いただしておこう。
俺の手が、柔らかな肌に押しつぶされていく。そして、ぽたぽたと水滴の感触も得られた。雅が俺の手を握りめてないているのだろう。
えぐっひぐっと嗚咽をもらしながら、次第に雅の手に入る力は大きくなっていっている。感情が高ぶりすぎだろう。おかげでちょっと痛い。
そろそろ起きて、雅に無事を知らせないと、手に包帯を巻く羽目になりそうだ。
「雅、痛い」
パチリと目を開いて、だるそうな声を絞り出して、雅を見た。はっとした様子で、俺の手が宙から放たれ、晴れて自由の身だ。
「秋都、大丈夫なの!?」
慌てようが尋常ではない。
「大丈夫も何も、ただの寝不足だ。俺には、お前の頭の方が大丈夫ではなさそうに見えるな」
雅は安堵したようで、ふらふらと後ろに倒れそうなほど気を抜いている。
「そろそろ部室に戻りたいな」
「肩かそうか?」
「自分で歩ける」
そりゃあまだ眠気は冷めないけれど、十分活動できる範囲ではある。
よっと、と声を出して立ち上がる。少しふらついたが、特に体に異常はない。
「よし、行くか」




