九話
「先輩、両親は何してるんですか?」
「……」
どういった話題だろうか。雅に何か吹き込まれたのか?
「今ごろ、寝てるんじゃないか?」
「どこで?」
「ラブホとか、もしくは自宅。あとは、永遠の眠りについている可能性もある」
とりあえず、こいつがどこまで知っているのか、様子を見よう。あまり人に知られていい内容でもない。
「自宅って、ここじゃないんですか?」
「場所は聞いてないからな」
俺が両親の場所について知っている内容と言えば、海外にいる、もしくはいたということだけだ。
「この家、なんだか不気味だと思うんですよ」
「何が?」
大体何が怖いのかはわかるが。
「兄妹仲は異常に良いし、春野先輩は先輩の両親を中学一年の頃から見てないっていうし……」
雅がうちの両親、もっと言うなら俺と夏花の父親、冬乃の母親を見ていないのも当然だろう。だってもうずっと、俺ですら見ていないのだから。完全な部外者である雅が、知っているはずもない。
「うちの両親な、出ていったんだよ。5年前に」
あの朝は衝撃だった。
中学校の入学式の日、朝起きると、テーブルに置き手紙と大量のお金が入った通帳だけが残されていたのだ。昨日まであったはずの両親の荷物は、どこにもなかった。さすがに、三階にある両親の寝室のキングベッドは残っていたが、枕はなくなっていた。
「それ以来、一切音沙汰なしだ。クソ親にもほどがあるっての」
踏み込んできたのは郡山なので、遠慮なく吐き出させてもらう。たまりにたまり、5年間募らせた、両親への不満を。
「それはまた……急でしたね」
「頼れるどころか、親戚の存在すら知らないし、当時は夏花と冬乃もぎすぎすしてたし、大変だったわ」
「ちなみに、通帳にはいくら入ってたんですか」
なぜこのタイミングで聞いてくる。玉の輿なんぞ狙っても無駄だぞ。
「まあ、9桁はあったから、おかげで生活には困窮していない」
贅沢などたまに寿司を食べるくらいなので、まだ億を割っていない。父はエリートどころではなかったようだ。
「9……ですか!?」
郡山は、指を折って金額を数えた。
普通の高校生からすれば、なじみがないどころではない金額だろうから、驚くも無理はないだろう。当時は普通だった俺も、腰を抜かしかけたし。なので、俺は金庫を開いて通帳を郡山に向かって放り投げた。
「……!?」
目玉が飛び出た。そういう表現が正しいだろう。さらに郡山は、指で桁数をなぞるごとに、顔色を変えた。さながらカメレオンのように。
「これ、本物ですか?」
「偽物に見えるなら、一度病院に行ってきた方が良いな」
「先輩の家、めちゃくちゃ金持ちじゃないですか……」
それは自覚している。親が残してくれた金があるからこそ俺は今こうして幸せな生活を送ることができているし、さらに置き手紙には海外に行くと書いてあったので、向こうでも生活できるくらいの金額を、父は所持していたことになる。まったく、浮気三昧の生活を送る中で、どんな仕事をしていたのだろうか。
さて、これが俺が雅に隠していた……というほどでもないが、言わないでいたことの一つ。
もう一つは、俺たち、兄妹についての話だ。




