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八話

「いらっしゃい」

「えっと、お邪魔します」


 六月に入ってはじめの日曜日。午前8時に練習に出かけて行った夏花(なつか)冬乃(ふゆの)を見送ってから一時間あまりが過ぎたころ、日山(ひやま)家には来客があった。郡山 光(こおりやま ひかり)である。

 本を貸すのと、前々から俺の家(郡山曰くデート)に来る約束をしていたからである。


「紅茶かコーヒー、どっちがいい?」

「紅茶でお願いします」


 俺はどちらかというとコーヒー派、もしくはコーラ派なのだが、しかしわざわざ二種類の飲み物を用意するめんどくささが勝った。二人分茶葉とティーカップを用意し、お湯が沸くのを待った。

 郡山は、その間ずっとリビングをきょろきょろしていた。この間の勉強会の時にも、来たというのに。


「エロ本はどこにあるんですか?」


 なんでいきなりこんなぶっ飛んだ質問をしてくるのだろうこの子は。


「持ってたら冬乃に没収されるんだよ」


 私たちがいるのに、とのことだが、一体この世の兄のうち、何人が妹に欲情するというのだろう。確かに俺は重度のシスコンであり、つまりは妹大好き人間だが、それでも冬乃や夏花を相手に股間が反応したことはない。というかいちいち反応してたら一緒にお風呂なんて入れない。


「よかったら、毎晩私のお下着姿でも送りましょうか?」


 どんな痴女だ。完全にネット社会の闇じゃねぇか。


「それなんか効果あんのか?」


 多分、それでも俺は反応しないだろう。というか、夜はほぼずっと妹たち(まれに(みやび))と一緒にいるので、右手との親睦を深めている場合ではない。妹とイチャイチャするので精いっぱいなのだ。

「JKの体をなんだとおもってるんですか」

 俺の回答が気に食わなかったようで、郡山はふくれっ面である。


「それを簡単に売ろうとしたお前は何なんだ?」

「私の体は私のものなので私の自由に使えますけど、他人に悪く言われるのは嫌なんです」

「暴論だな」


 いや、ある種正論ともいえるか。

 ピーッと、甲高い音

が鳴る。湯沸かし器の音だ。最近は便利な物が多く、お湯が沸くまでの時間が異様に短い。

 茶葉からいい感じに色が出たところで、少しづつ、カップに注いでいく。交互に少しづつ注ぐとおいしいらしい。特にこだわりはないが、どうせならと思って不確定なその知識に従ってみる。

 二人同時に口をつけると、郡山は控えめな息を漏らした。リラックスモードのようだ。

 とりあえず、俺はミステリ小説の一巻から八巻を持ってきて、リビングにある机の上に置いた。


「この主人公、先輩みたいですよね」

「何がだ?」

「シスコンなところとか」


 このシリーズは主人公がシスコンなことから人気が出た作品だ。ラノベチックな設定が、本格的なミステリだ。


「妹への愛では負けん」

「どこ張り合ってるんですか」


 郡山はけらけらと笑う。愛を張り合うことの何が問題なのだろう。


「あー、ところで先輩」


 笑い終えてから、空気が変わった。


「ん?なんだ?」


 とりあえず、笑顔で応じておく。


「先輩、両親は何してるんですか?」

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