七話
「ちわっす」
挨拶もほどほどに、この部室内の定位置である窓際の椅子に静かに座った。
テストだったり郡山たちからのうざがらみがあったりで、全然読めていなかったいつやぞのミステリ小説をカバンから取り出した。
べつに俺は読書に重きを置いているわけでもないので、周りが作り出した状況による活字不足を責めたいわけではないが、しかし最近の時間のなさは俺の中では以上である。家では常にフル活動だし。
緋色の液体が、尾を引いて宙へと飛び去った。
一幕置いて、叫び声。その次に、ゴロンと重たいなにかが床に落ちる音。
──第三の殺人。それも、僕の目の前で。いや、もしかしたら僕たちがこの部屋に入ってきたときの、首を吊られていた時点で既に死んでいたのかもしれない。それよりも、どうやって首をはねたのかだ。皆目見当もつかない。
とりあえず、子供には刺激が強すぎると思い、考えるのは後にして隣で震えている麻衣を部屋から離した。
一ぺージめくると、いきなり殺人事件で始まった。実際には、俺が長いこと続きを読んでいなかったので、ちゃんと流れに沿っているのだろうが。
パラパラとめくっていくと、やがて、主人公が刺されるシーンがあった。妹の麻衣をかばって。暗い描写が、一次元向こう側の世界で起こっている悲惨な事件を、ヒリヒリと伝えてくる。
「グロイですね」
気が付けば、郡山がそばに居て、俺の持っている小説を覗きこんでいた。
「まあ、連続殺人をテーマにした本だし」
「この手の本って、なんでか主人公だけは刺されても生き残るから好きじゃないんですよね」
「こういうのは、ご都合主義万々歳だからな」
そもそも主人公が死んでしまえば、話が進まなくなる。俺たち読者からすれば、事件は迷宮入りになってしまうのだ。それを読んで楽しめるのは、ごく一部の変わった人間だけだろう。勿論そこに俺は含まれない。
主人公が刺された次のページをめくると、なんとそこには、殺された全員がそろっていたのだ。何がどうなっているのか、俺にはさっぱりだ。しかし、ゆっくりと語りだした主人公の説明で、犯人とともにすべての事柄を理解する。
「面白かったな」
「面白かったです」
(以前に読んだときの内容を覚えていないので)途中から読んだのだが、なかなかに楽しめるものだ。さらにこれで一時間もの時を超越することができる。最高の暇潰しだ。
「これ、シリーズものなんだが、全部読むか?」
今俺が読んでいたのは番外編を合わせてシリーズ8冊目だ。郡山は内容以前に世界観すら知らないので、それでは楽しさも半減だろう。もっとも、俺も細かい設定を全部覚えているかと言われれば、そうではないのだが。
「はい、よろしくお願いします」
郡山は、優しく微笑んだ。




