六話
「おはよう、クズくん」
教室に入るなり、奇妙なあいさつをされた。相手はもちろん青葉である。
「どうしたんだいイケメンくん」
周りは何も言ってこないし、俺の机や椅子は無事だ。どうやら、青葉は俺のクズさを広めたりはしていないらしい。つくづくイケメンな行動をしやがる。ムカつくくらいに。
「いやいや、今日も無駄に綺麗な顔立ちをした真性ドクズが見えたもんで。話しかけずにはいられなかったよ」
何がしたいのだろう。珍しく煮え切らない態度だ。何も話題がないのなら、友達とはいえどあまり話しかけてもらいたい相手ではない。こいつと話しているだけで、俺には無駄な注目が集まってしまうから。視線を浴びるのは嫌いだ。俺のような小心者は、注視されるだけでもドキッとしてしまうのだ。もちろん、恋愛的な意味ではない。
「殴っていいか?」
なんとなくイライラしたので、今日は俺の方からこのセリフを行ってみた。
「もしも俺の顔に傷をつけたら、どんな手を使ってでもお前と妹の人生を破滅に導いてやる」
そうなれば、殴った俺が悪いのだろうけど、しかし俺は思う。こいつもなかなかのクズではないだろうか。俺とタイマンで勝負すれば、結構な僅差で俺が勝つくらいの、クズさを秘めているのではないだろうか。今のが冗談だというのは、流石に分かっているけれど。
「もし夏花か冬乃に害をなすようなことをすれば、お前の心臓を包丁で抉るぞ」
「その場合、兄が殺人犯というレッテルを妹ちゃんたちは得るわけだが?」
「刺す前に絶縁しとけばなんとかなるだろ」
なんて、かなり狂気な話で、俺たちは教室の隅を賑わせる。他のクラスメイトたちは、青葉のグループを含めて俺たちを気にする様子はない。もう俺と青葉が仲良く話しているのは、よく見る光景の一つに数えられているのだろう。
こんなに普通に生きている自分が、なんだかバカらしい。昨日、普通の人間はしないであろうことをしたばかりなのに。いや、妹とお風呂とか、昨日だけじゃなくほぼ毎日のこと(夏花が寝落ちする日があるため)なのだが。
「で、なんの用なのかそろそろ言ってもらえるか?」
「おいおい、用がなけりゃ話しかけちゃいけないのか?それが友達か?」
「少なくとも、俺は無意味に話しかけられたくない」
家で妹たちを甘やかすための労力を、無駄に消費したくないのだ。
「なんでこれがモテるのか、俺はさっぱりわかんねぇや」
「俺も分からんから安心しろ」
果たして、雅は俺のどこをみてどう好きになったのか、真相は謎に包まれている。こればかりは、本人以外には分かりようがないだろう。だからこそ、俺としては好かれるだけ困るばかりなのだが。
「まあ、顔はいいけどな。そこそこ」
「なんで俺の容姿についての評価は、いつもそこそこがつくのか、それも謎だな」
一息ついて、青葉は言う。
「そこそこだから、だろ?」
間を置くまでもない、当たり前のことだった。




