五話
誰かの泣き声が聞こえてくる。
二つの温かい塊が、俺の足に抱き着き、涙を延々とたらしているのだ。
二人を、俺はそっと、抱きしめた。
はてさて。たぐいまれなクズさが幼馴染に露見した(もしかしたら、もっと前から気づかれていたのかもしれないが)俺だったが、しかし雅の態度はいつも通りであった。いつも通り過ぎて、飽き飽きするくらいには、いつも通りだったのだ。
適当に笑顔を返してきて、適当に絡んでくる。家まで一緒に帰ったし、夜ご飯だってうちで食べていった。俺としては、はっきりと俺の言葉で俺の心境を聞いたことによって、すっぱりと俺の事を諦めてほしかったのだが、どうやらそれは失敗に終わりそうだ。
「お兄ちゃん、爪、立ってる」
おっと、石鹸のいい香りで想像の世界へトリップしてしまっていたようだ。今は、冬乃の髪を洗うことに専念しなければ。
「悪い悪い」
雪のように真っ白な髪をなでるように洗い、シャワーで流す。つやつやとした長髪に、思わずダイビングしそうになってしまうが、そこは俺のお兄ちゃん力の見せどころ、匂いを嗅ぐだけで我慢した。
「次、あたしね~」
待ちくたびれていたのか、先に湯に浸かっていた夏花が、たわわに実った果実二つが大きく揺れるくらい俊敏な動きで冬乃を押しのけ椅子に座った。冬乃とは対照的に、黒く短い髪を、わしゃわしゃと音を立てて洗っていると、夏花は「はふん」と謎の声を漏らす。可愛い。
一通り洗い終えると、今度は俺の番だ。二人が、隅から隅まで洗ってくれる。至福の時である。
柔らかくすべすべぷにぷにのおてて四つが、俺の体を白い泡でコーティングしていく。極楽浄土とはわが家の風呂場である。三人以外の立ち入りは認めないが。
全員が体を洗い終えると、三人仲良く湯舟に浸かる。一日で一番落ち着く時間だ。
「そういえば、こうして三人でお風呂に入りだしたのっていつだっけ?」
夏花が、不意にこんなことを言った。
「確か、俺が中一の時だったな」
あの頃は、おそらく俺の人生で一番大変だった時期だ。
「普通、きょうだいとは入らなくなる年齢なのにね」
確かに我が家は普通ではないが、しかし普通ではないから俺たちはこうして、家族でいられるのではないだろうか。もしも世の中の普通に従って生きていたら、俺たちは、きっともっとぎすぎすとした関係になっていただろう。
「お母さん、どうしてるかな……」
冬乃が息を吐きながらそう言った。
「まあ、きっと適当に生きてんだろうな」
過去を思い出すように、俺たち三人は、同時に目をつむった。




