四話
朝教室に入ると、いつも通り青葉はそこにいた。視線を送ると、昨日と同じく数秒後にこちらに来る。
「昨日はありがとな」
青葉は何やら怒っているようだが、気にはしない。
「お前、いい加減ぶん殴られたい?」
「昨日も似たようなやり取りをした気がするんだが」
「俺、ちゃんと春野の気持ちを考えろって言ったよな?」
「ああ、言ってたな」
「その理由、ちゃんと分かってるか?」
心当たりがない……と言いたいところだが、さすがに俺もそこまで鈍感ではない。むしろ、ここまでされて、そうでない方がおかしいとすら思う。青葉を含む周りも、意味深に濁してくるし。
だから、ため息を吐きながら、俺は言ってやるのだ。
「雅が俺のことを好きだったからといって、俺がそれに答える必要はないだろ」
何食わぬ顔で飄々と言ってのけた俺に、青葉は驚いた顔を見せた。
「お前……」
「正直言って、好きでもないやつに好意を寄せられる方が迷惑だ。だから、俺は雅と先輩にはくっついてほしいんだよ」
「……」
予想外の展開なのか、青葉は黙りこけてしまった。
「だから、お前がどんなパスを出そうが、俺はそれをゴールに決めたりしない。そのまま先輩に蹴り上げるさ」
自分で出した昨日の状況の例えで思い出した。確か青葉はサッカー部だ。バリバリ補欠だけど。
「俺、お前っていう人間を勘違いしていたみたいだわ」
「たかだか4、5年の付き合いで俺のすべてが分かった気になってたとか、とんだ自惚れだな」
雅ですら、1から100まで分かっているかと言えば、そうではないだろうに。
「だからって、人の気持ちに真面目に答えないってのは」
「勝手に好きになられて、勝手に迫られて傷つかれて。そんな面倒なのはごめんだからな。無視が一番なんだよ。現状維持を求めるわけじゃないが、俺の幸せを崩すってんなら、たとえ雅であろうと関係なくぶった切るぞ」
教室の外に、見慣れた人影が一つ。ちょうどいい。分からせる絶好の機会だ。誰がお前を好きで、誰がお前を好きでないのかを。
「俺は、妹たちと幸せに暮らせれば、それだけでいいんだよ、それだけで、な」
幼馴染とかそんなもの、俺にはどうでもいい。妹たちさえいれば、それで。
「秋都……」
例え、それで大切な他の誰かが傷つこうとも。




