三話
「こんちわーっす」
無駄に声を張って入ってきたのは、男から見ても美人、いかにも「俺、モテますから」という感じのイケメン、青葉 清だった。
「お前、部活は?」
あらかた先輩が死んでいるのを見越して来てくれたのだろうが、しかし青葉は俺たちと違って真っ当に部活をしている。何部だったかは忘れたが、いかにもリアリアとした充実系クラブであったことは間違いない。
「補欠にはサボる権利があるのだよ」
「サボってるから補欠なんじゃねぇの?」
会話のキャッチボールに使われたボールを正論の金属バットで叩き、俺はこほんと咳払いをした。
「で、何の用だ?」
「友達に会いにくるのがそんなに悪いか?」
「少なくとも部活をサボってまでくる必要はないよな」
リア充の感情論は大抵正論で爆破することができる。感情論が間違っているとは思わないが、感情で動いたところでろくなことがあるはずがないので、やはりリア充と俺は相容れない。
「なら、ちゃんと理由があるならいいんだよな?」
青葉は言いながら、何枚かの紙が入ったクリアファイルをカバンから取り出した。表紙の紙には、『文化祭計画書』と書かれている。
「春野にこれを届けにきたんだよ」
「あ、ごめん忘れてた」
どうやら、雅の忘れ物らしい。
「ありがとね、青葉くん」
それを受け取ろうと立ち上がった雅は、社交辞令のような笑顔を向けていた。キャラが掴めないといっても、流石にその笑顔が本物かどうかくらいはなら、俺でも判断できる。幼馴染の力というやつだ。
しかし、いざ雅が受け取ろうと手を伸ばすと、青葉は意地悪くクリアファイルを持っていた手を天高くつき上げた。
「ん?何してるの?」
雅が首をかしげると、
「ただ届けに来たんじゃ、俺損じゃない?」
と青葉は言う。なんらかの交渉を持ち掛ける気だろうか。まあ、たいていの場合こういう場面での交渉内容など、決まっているようなものなのだが。
「お礼にデートとかしてくれたらうれしいなーって」
クズである。圧倒的にクズである。青葉 清、一体そのイケメンフェイスのどこからこんなクズ台詞が出てくるのか、気になるレベルだ。
雅は完全に面食らってしまって、動けなくなっていた。
数秒間の思考──なるほど、そういうことか。完全に青葉の狙いが分かった。
俺は、先輩に前に出るよう視線で促し、先輩はすこし考えてから動いたてくれた。
「き、君!!男ならそんな卑怯な手を使わず直球勝負して見せろよ!!」
……まあ、及第点だろうか。
青葉は、何も言わずにクリアファイルを雅に手渡し、軽く頭を下げてからイケメンな背格好で去っていった。
とんだ茶番だ。俺からしたら。青葉の行動は、雅に対して、先輩の存在をアピールさせTだけなのだ。自分という悪役を使って、氷堂 玲という頼もしい部長をを、示させた。クズどころか、自ら悪役を買って出るイケメンだったのだ。明日あたり、お礼を言っておこう。
「春野さん、大丈夫かい?」
そしてこのアフターケアである。この人、こういうところは良いんだけど、妙に憶病だから大変だ。
俺は、茶番に付き合いきれなくなって。中庭の自販機までコーラを買いに行った。




