二話
「ただいまー」
玄関で叫ぶと、リビングから布のこすれる音が聞こえた。冬乃 がいるのだろう。
「お帰り、抱っこして」
予想通りフローリングを転がって、冬乃が顔を出した。表情が疲れているところを見ると、今日は体育があったのだろうか。
望み通りお姫様抱っこで、冬乃を二階の部屋まで運ぶ。汗の匂いがするので、俺の思考回路は今日もばっちり機能している。
「ありがと、大好き」
ベッドに冬乃を下ろすと、冬乃が顔を近づけてくる。キスがしたいのだろうか。
「こら、それはしない約束だろ?」
しかし、俺はをそれを払いのけた。
当たり前だ。どんなにお互いを好こうとも、俺たちは兄と妹。どれだけ大切な存在ではあっても、一線はひかなければならない。近親相姦はしないと、俺たちは誓っている。その線引きがあるからこそ、俺たちの関係は成り立っている。
流れで押し切ろうとしたのが失敗したからなのか、冬乃はほおをぷくっと膨らませている。
「そんなに顔膨らませてると、可愛い顔が……さらに可愛くなるとかお前一体どんな魔法使ったんだよ」
台無しと続けるつもりが、可愛すぎてつい本音が漏れてしまう。だって可愛いんだもん。何でこの子こんなに可愛いの。七つの大罪に可愛すぎるを追加したいくらいだ。
ゴロンと顔を俺に見えないように反対を向いたしぐささえ、可愛い。もう前身舐め回したいくらい。汗の一滴も逃さないように。これならまだちゃんと線引きが出来ているだろう。
「いやアウトだから。顔面直撃の文字通りのデッドボールだからそれ」
俺の部屋の方から声が聞こえたので振り向くと、雅 がいた。おそらく、暇つぶしに来たら愛がはぐくまれていて面食らったのだろう。こんなにも素晴らしいシーンだったのに。
「妹の体をなめたくない兄なんているのか?」
「多分それに当てはまるのが普通なんだと思うよ」
「つまり、まちがってるのは世界の方だな。間違いなく」
雅は、大きなため息をついた。
「あんた、そろそろ真面目に恋愛してみれば?みてくれは良いんだし」
何とも心外なことを言う。妹とのトゥルーラブは恋愛ではないというのか。
「家族愛と恋愛の愛を吐き違えるな」
「その理論だと、父と母の間に家族愛はないことになるんだが」
雅は黙った。
また一人論破してしまった。これが、妹への愛の力だろうか。