十話
「……」
「……」
静寂が訪れる。
場所は部室から、俺の部屋へと移っている。家に帰るなり、俺は雅に自室へと連れてこられたのだ。
「で、相談ってなんだ?」
それから五分ほど、ずっとこの調子なのだ。黙り込んでしまっていて、話にならない。話をしてくれない。お手上げ状態だ。
……まあ。雅の話の内容は、あらかた分かっているのだが。
「家に帰ってまで悩むくらいなら、素直にOKすればよかったのに」
その言葉に反応して、がばっと雅は顔を上げた。
「なんで知ってるの?」
雅の瞳には驚きの二文字が宿っている。
「さっきまで、部室で慰め会開いてたからな」
のぞきをしていたことは黙っておいた。怒られそうだ。
「そこまで知ってるなら、ずっと黙ってるのが馬鹿らしいじゃん」
「実際馬鹿だろ。こんなに悩むなんて」
「だって、初めてだったんだもん。告白されるとか」
布団をぎゅっと握りしめて、雅は震えた声で叫ぶ。
「それに、先輩のことは嫌いじゃないし、これで部活の雰囲気が悪くなったらとか考えたら怖くて……」
怖いくらいに予想通りだ。
「ま、俺も告白なんてされたことないからよくわからんが」
それでも、一つだけ言えることがある。
「ないと思うが、もしこれで今までの関係が崩れても、お前じゃなくて先輩のせいだろ」
悪いのはフった側ではなくこくった側である。これだけは間違いない。
「で、何でOKしなかったんだ?」
これ以上この話題について言及することはないので。少し前の話を掘り返した。
「好きでもなかったから」
なるほど、雅なりに紳士的に答えようとした結果という訳か。
「なら、悩む必要ないんじゃないか?」
「だから、みんなとの関係が変わっちゃうのが怖かったの!!」
「だったら、この話はこれで終わりだろ」
「あと、学校に広められたりしたら……」
「あの人がそんな人間に見えるなら、一度病院に行った方がいい」
もしそんなことを本当にしたのなら、俺は本気で怒るが。先輩に対して。
「うん、そうだね。悩んでたのがバカみたいだね」
「正直ものはバカを見るらしいぞ」
冗談で場を和ましつつ、雅の肩の荷を下ろしてやる。
「私、結構嘘つきだと思うんだけどな」
「嘘はバレなきゃ嘘じゃないんだよ」
すくなくとも俺に雅の嘘を見破るスキルはない。
「そろそろ、秋都も私のことを理解してほしいんだけどな」
ならば、俺に理解できるような単純明快な人間になってほしいな。
その時、俺の部屋のとびらがこんこんと叩かれた。
「二人とも、ご飯できたよ」
我が家の夕食担当冬乃ちゃんである。本日も長い白髪が美しく、くりくりのお目目がとってもかわいらしい。惚れ直してしまいそうだ。
「分かった、今行く」
俺は、雅の手を引いて階段をゆっくりと降りていった。




