一話
春野雅 は俺の幼馴染だ。
家が近く、年齢が同じということもあり、昔からよく一緒に行動していた。
それは、今も変わらない。高校が同じ学校になったのはたまたまだったのだが。
これだけ一緒にいると、友達からはよく「付き合ってるんじゃないの?」と聞かれるが、俺は常々ありえないと答える。なぜかというと、それはもちろん実際に付き合っていないからなのだが──たいていのやつはこの答えだけで満足するのだが、まれに、ごくまれに、さらに踏み込んでくるやつがいる。
「いやでも実際に可愛いよね、春野さん」
わが校の生徒会副会長、氷堂玲 である。
「客観的に見て可愛いとは思いますが、俺の主観で見れば完全に崩れ落ちるような可愛さですね」
俺の可愛いセンサーに反応するのは妹だけだ。
「秋都 くん、妹以外の女性に興味ないの?」
「もちろん。妹に失礼ですから」
「その発言が妹以外の女性に対して失礼じゃないかな?」
「わけのわからない事を言わないでもらえますか」
氷堂先輩はまるで、君の方がわけがわからないと言わんばかりの表情をしている。
「で、本題なんだが」
現在俺がいる場所は生徒会室。時刻はちょうど昼休みのど真ん中。先輩に、放送で呼び出されたのだ。
「僕と春野さんのデートをセッティングしてくれないか」
「それ、生徒会長にいったらどうなるでしょうね」
「頼むからそれはやめてくれ」
まあ、なぜこのタイミングだったのかは分かるが。部室は昼休みも放課後も、誰かしらいるので使えない。ほかの教室も、ほとんど無理だ。だからこそ、昼休みの生徒会室と言うっ場所だったのだと理解はできるが……。問題は、その内容である。
なぜ生徒会副会長が率先的に不純異性交遊をしようとしているのだろうか。
「別に不純なことをしようとしているわけではない!!……できれば高校卒業までに童貞は捨てたいと思ってるけど」
「童貞を捨てるには不純異性交遊必須なんですが」
「真面目に結婚を前提として付き合うならば、なんの問題もないと思うんだ」
「もしそれで雅が妊娠でもしたらどうするつもりなんですか?」
「そりゃもちろん、責任を取るさ」
「では、それを見たほかの人たちはどう思うでしょうね」
珍しく、俺は真面目な口調だ。
「間違いなく、青春の熱にうかされた愚か者扱いされますよ、どんなに本人たちが真面目に付き合っていたとしても」
「それは気にしなければいいだけの話で……」
それはその通りなのだが、空気というものは思っている以上に厄介だ。この場合、一生涯付き合っていくことになるだろう。
「とにかく、童貞捨てるのは、二人とも卒業した後にしてください。それなら俺、何も文句は言いませんから」
「ああ、分かったよ……」
もっとも、その前に告白してOKをもらえるのかどうか、だが。