二話
「先輩、これどうやるんですか?」
「ああ。ここはこれをこっちに持ってきて……」
おっ、いい感じだな。成績は良いもんな。一年前の勉強など、簡単だろう。
「なるほど、ありがとうございます」
カリカリと、四本のペンが走る音だけが響く。まっとうな、学生の空間という感じだ。数学は得意なので、次々と応用問題に手を出していたら、隣に座っている郡山が袖を引いてくる。
「先輩、ここ教えてくださいよ」
「あと五分自分で考えろ。俺は自分の勉強で忙しい」と返してやりたいところだが、しかし今回の作戦の内容的に、ここはちゃんと答えねばなるまい。
「これをこうして、あれを使って、こうすれば解けるぞ」
「分かんないんでもう一度お願いします」
「だから、これをこうして……」
三度説明して、ようやく郡山は理解してくれた。
これで自分の勉強に戻れるな。雅は先輩に大量の質問を投げかけているし、かなりいい雰囲気なのではないだろうか。
なので、ここで一つ動いてみる。
「俺、コンビニ行くけど」
立ち上がって、扉の方へ移動する。何か欲しいものはあるかと聴きながら、郡山に視線を送った。
「私もついていきます」
俺の、二人きりにしてやるのいう意図を感とって、郡山も立ち上がってくれた。
「じゃあ、ストレートティー買ってきて」
「僕はモンエナをお願いしようかな」
二人の注文をスマホのメモにしっかりと書き込み、部屋を出た。
学校の裏にあるコンビニに行くには少々遠回りをしなければならない。部室から少し歩いた所にある東門を左に曲がり、住宅街へと出た。コンビニに一番近い南門は、業者の出入り用らしく、ほとんどの場合は開門されていない。
学校の壁に沿って、もう一度左に曲がると、青色の看板を掲げた、見慣れたコンビニがある。学校から近いので、部活前に寄り道する生徒も多いのだが、テスト前のこの時期は、教室や図書室で勉強するか、自宅で勉強するか、ファミレスなどで騒ぐかを選ぶ生徒が多いため、同じ制服を着た者は誰もいなかった。
まずは、雅に頼まれた赤色のラベルが貼られた紅茶に手を伸ばす。注文通りの品であることを確認して、郡山が持ってきてくれた買い物籠にそっと入れた。
氷堂先輩が好んで飲んでいる緑色のエナジードリンクは、最近出たらしい500㎖の缶を買い、俺の分のコーラを手に取った。郡山は勝手にレモン系の味がしそうなビタミンたっぷりのドリンクを籠に投入している。
飲み物はこれで終わりだ。次は、勉強会のおともと言えるおかしたちを大量に購入していく。チョコレートやラムネ、グミなど。
「そういえば先輩って、何で氷堂先輩のために動いてるんですか?」
途中、郡山がそんなことを聞いてきた。
「どっちかっていうと、雅のためだな」
買い物を続けながら応答する。
「あいつには世話になってるし、幸せになってほしいわけよ。いい男でも捕まえて」
「それにちょうど氷堂先輩がマッチしたってことですか」
納得したような表情で、郡山は続ける。
「先輩のこと、妹以外はどうでもいいと思ってる人だと思ってました」
「あながち間違いじゃないが、友達とか、妹以外にも大切な人はいるんだよ」
ここでの買い物は、一応部費で落ちるので、お金の心配はせずにどんどんとおかしを入れていく。
「まあ、俺が何を思っていようが、ほとんどの人はいつか、俺から離れていくんだろうけどな」
最後にボトルガムを一つ入れて、そうつぶやいた。




