第6話:ゴーストタウン
洞窟を出てから、俺は全速力で走った。+80の俊敏性のおかげで、ペースはめちゃくちゃ速い。
昨日までの俺より二倍以上速いペースを出せるのは本当にありがたい。あの時ゴブリンキャンプを潰す判断は正解だったのだと確信した。
十分ほどでリーン村についた。村の入り口は閑散としていて、いつもの活気がない。まるでゴーストタウンだ。
何か大変なことが起こったのだということを肌で感じた。
「誰かいたら返事をしてくれ!」
大声で叫んでみる。……だが、返事は返ってこない。
ひとまず、村の中を歩いてみることにした。
外に人がいないばかりか、家屋の中からも物音一つしない。
リーン村の人口はおよそ三百人。この数が一斉に姿を消すなんてどう考えてもおかしい。
「……こっち」
物陰から小さく俺を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある女の声だ。この声は……。
「リアか!?」
「そう、私はリア。早く、こっちに」
「お、おう」
俺は言われるがままに、移動した。
「ごめん、俺酷いこと……」
「何のことかしら?」
「怒ってないのか?」
「ええ、別に」
彼女の口調からは俺への怒りはあまり感じられない。それよりも、彼女は俺と合流してからも常に周りを警戒しているようだった。緊迫した空気が伝わってくる。
ビンタの一発くらい覚悟していたので少し調子が狂ってしまう。……それとも、俺に愛想を尽かしたのだろうか。……どちらにせよ、まずは状況確認が先か。
「……何があったんだ?」
「オークが突然攻めてきたのよ。……誰も太刀打ちできなかった」
オークといえば豚顔をした魔物のことだ。ゴブリンよりは強いが、村で対処できないほどではないはずだ。稀に村の近くに出没することがあったが、いずれも退治に成功している。
「冗談だろ?」
「私が冗談を言ってると思う?」
「……いや、思わない」
リアの表情は真面目な時のそれだった。
「でもおかしいだろ。村の戦力だけで充分オークくらいなんとかできるはずだ」
「……量が凄かったのよ。何十って数のオークが出てきて、あっという間に村の人たちは捕まってしまったの」
「捕まっただと!? オークが人を捕まえたのか?」
ありえない。オークにそんな高度な知能はないはずだ。それどころか、何十という数を統率できていたということ自体、常識から外れている。
「お父さんは自ら囮になって私を逃がしてくれたわ。……私は、一刻も早く応援に来てくれることになっているルール村の兵士に戦力が足りないことを伝えなきゃいけなかったの。……そこにあなたが来たってわけ」
俺が目指していた村――ルール村から出てくる大軍は、このために呼び出されたらしい。……だが、何十という数のオークに対してあの数ではどう考えても足りないのは明白だった。
緊急連絡水晶は貴族の家ではなく、村の役場に保管されている。リアはルール村の兵士に一旦帰還させるための伝令を任されたというわけか。
「村の皆はいまどこに?」
「家の近くに牧場があるのはわかるわよね?」
「もちろんだ」
「あそこに全員集まられているはずよ。奴らの狙いはわからない。殺害や強奪じゃないことは確か」
「……理由がわからないな」
魔物が村を襲う理由としては大きく分けて二つ。
一つ目は、食料の確保。魔物は増えすぎると村の外で得られるものだけでは足りず、人間から奪おうと考える。
二つ目は、人類の殺害。魔物は理由なく人間を殺す習性を持っている。
そのどちらでもないとすると……まったく理由がわからない。
「……でも、どうして牧場に固められたのかしら。場所にも何か理由があるのかも」
「確かにそうだな。広い場所じゃないとできないことがあったとかか?」
そこまで言って、俺は一つの可能性に気づいた。
「もしかして禁忌魔法……とかじゃないよな」
禁忌魔法というのは、人間を生贄として使う魔法だ。一般の村人が持つ魔力は微量なものだが、何百という数を合わせると大きな魔力になる。
いや、でもオークみたいな低知能の魔物がまさか……な。
「えっと……リア、どうした?」
リアは真剣に何かを考えている顔で、硬直していた。
そして、
「……それに間違いないわ。いいえ、それしかありえない。だって、そうでもないとおかしいもの。……助けなくちゃっ!」
「お、おいリア!」
リアは牧場に向かって駆け出してしまった。必死に村の人たちを助けたいと思っていることは伝わってくる。……だが、何十というオークに彼女が立ち向かうのは無謀だ。
俺も後を追った。
……やれやれ、俺が戦うしかなさそうだ。
「リア、俺も一緒に行く」
リアの不可解な行動が気になります。
※全話までのステータス値を修正しました。ストーリーの変更はありません。