第4話:鍛冶スキル
ステータスウィンドウは消えるように念じると消え、見たいと念じれば出てくるようだった。ひとまずは視界から消して、先へ進むことにした。
さらに深い森の中に入ると、ゴブリンに遭遇することが増えた。
ステータス上では攻撃力が強化されているようなのだが、実際に戦うとそんなに強くなった気はしない。
ゴブリン一匹につき上昇するステータスは1なのだから、実感がわかないのかもしれない。
倒し方は最初と同じだ。
まずはゴブリンの持つ棍棒を奪い、それから打撃で殴る。死んだことを確認してから【盗賊】スキルでステータスポイントを回収する。
こんなことを何度も繰り返し、攻撃力107+10になった。
「そういえば鍛冶スキルなんてのもあったよな」
俺には【盗賊】の他にもう一つ与えられたスキルがある。それが【鍛冶】スキルだ。
これも使い方はわかるが、使った結果どうなるのかはわからない。おそらく生産系のスキルだとは推測できるが、ここに10個の棍棒がある。試してみよう。
目の前に棍棒を並べ、スキルを使う。
すると、またさっきのゲーム風ウィンドウが現れた。
【『普通の棍棒』と『普通の棍棒』を合成します。よろしいですか?】
同意するように念じると、二つの棍棒が光に包まれる。
その光が合体し、一つの光になって、形作られていく。
【『鉄の棍棒』を獲得しました】
二つの棍棒が消え、頑丈そうな鉄の棍棒が一つ転がっていた。
「おおっ……! これは凄い!」
楽しくなって、残りの棍棒も全て鉄の棍棒に変えてしまう。
それから、鉄の棍棒同士を合成させてみることにした。
【合成に失敗しました。鍛冶Lvが不足しています】
……どうやら、これ以上の合成にはレベルを上げる必要があるらしい。どうやってレベルを上げるのかはわからないが、ひとまず鉄の棍棒という強力な武器が手に入ったことを喜ぶとしよう。
◇
鉄の棍棒を振り回しながら先に進むこと一時間。
この武器さえあれば、ゴブリン程度なら一撃で倒せるようになった。五本のうち一本だけを使っている。残りの四本は正直邪魔なのだが、魔物に拾われるリスクを考えた結果、捨てずにバッグに突っ込んでおくことにした。
スムーズに進むことができたおかげで、次の村が見えてきた。
まだ距離はあるが、このままのペースで進むことができれば三十分ほどで到着できるだろう。
貯まったステータスポイントは30。攻撃力はもう十分だったので、あれ以降割り振っていない。
今度は俊敏性にまとめて振ってみることにした。
ゲーマーとしては極振りも楽しそうなのだが、やはりバランスよく強化した方が色々なことに対応できる。俊敏性が文字通りの意味なら、移動速度や攻撃速度が速くなるはずだ。
【ステータスポイント30を俊敏性に割り振ります】
――――――――――――――――――――
名前:アレル・ウォルティーゼ
レベル:9
ステータスポイント(SP):0
ステータス
攻撃力:107+10
防御力:52+0
魔法攻撃力:30+0
魔法抵抗力:20+0
俊敏性:59+30
保有スキル
盗賊Lv1
鍛冶Lv1
――――――――――――――――――――
ステータスに反映されたことを確認して、少し走ってみた。
おおっ! 身体が軽い! 足が速くなってる!
感動した。ステータスというものは30だけでこれほどまでに変わるものなのか……!
これなら次の村へも予定より速く着けそうだ。
俺はさっきよりも速いペースで足を進め、どんどん次の村へと近づいていく。
「なんだあれ?」
村の中から出てくる大軍がいた。大軍とは言っても五十人くらいの規模だが、兵士のように鎧を身に着け、剣と盾を持って行進している。
なんぜこんなところに兵隊が?
大軍の先頭を歩く男が俺に気が付いた。
「まさか君はリーン村から来たのか!? 向こうの様子はどうなってる! 詳しく聞かせてくれ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに俺はリーン村から来ましたが、何もわかりません。……どういうことですか?」
「……一時間ほど前、リーン村の緊急連絡水晶が割れた。こちらとしてもどういう状況かわからないが、集められる兵を全部集めたという状況だ」
この世界の各村は、大抵が近くの村と戦力を共有している。有事の際にはお互いの村を守るため、戦力を共有するという決まりになっている。
その合図となるのが緊急連絡水晶。片方を壊すともう一方も自動的に壊れる仕組みになっており、魔物の襲撃などで村の中だけで対処できなくなった時に、応援を求める合図になる。
「……俺がリーン村を出たのは二時間ほど前です。だから、何かあったのだとしたらこの二時間の間ということになります」
「ふむ……今から急ぎで向かうとすると一時間半はかかるな。急がねばならない。協力感謝する」
大軍は行進を再開する。
気が付けば、俺はリーン村へと回れ右していた。
あの村には父さんや母さん、それにリアがいる。……何も言わずに出て行ってしまったけど、いつか勝手に出ていったことを謝りたかった。
今から向かっても間に合うかどうかわからないし、俺の力でどうにかなるかわからない。
でも、放っておけなかった。
俊敏性を上げたおかげで、走りがとても速い。
これなら一時間もかからず着く。
「き、君! リーン村は緊急事態だ! 安全地帯に避難しなさい!」
俺は注意を無視し、リーン村へと向かった。