いいお婿さんになれるね。
部室で友人たちとおしゃべりしていたら、いつの間にか「将来なんの仕事に就きたいか」という話になっていた。みんな順番に自分の夢を発表していって、やがて僕の番になったので、僕はこう言った。
「僕、子どもの頃から医者になりたいと思ってて……今も、医学部を目指して勉強してるんだ」
すると、そばで聞いていたらしい鈴木先輩が、話に割って入って僕に言った。
「へえ。医者って、すごく高収入な仕事なんでしょ? そんな稼げる職を目指して努力してるなんて、佐藤くんはきっと将来、いいお婿さんになれるね」
にこりと笑う鈴木先輩。その笑顔を見て、どっきん! と心臓が高鳴った。この部活に入ったときから、ずっと気になっていた、憧れの先輩だ。そんな女性に「いいお婿さんになれるね」なんて言われて、舞い上がらないわけがない。
鈴木先輩は、しっかり金を稼げる男が好みなんだろうか。「いいお婿さんになれるね」なんて言うからには、そういう男が理想の結婚相手、なんだろうか。そ、それじゃあ、もしも将来、僕が本当に医者の仕事に就いて高収入な男になれたら。もしかしてもしかして、鈴木先輩も僕のこと、す、す、好きになってくれたりするんだろうか!?
たとえば、卒業後何年かして、同窓会で再会したりして! そのときに、僕が「今は大病院で医者やってます。年収は一千万です」とか自己紹介したら、鈴木先輩が「へえ、すてき。やっぱり佐藤くんっていいお婿さんになれるよね」とか言ったりして! それでそれで、それをきっかけに僕たちは交際し始めて、何ヶ月か経ったある日、鈴木先輩がおもむろに真剣な顔になって「これから毎月、うちに給料を入れてほしい」なーんてプロポーズの言葉を――うわあああぁぁぁぁぁっ!!
ついつい妄想が爆発して、僕は耳から湯気を噴き出しそうになった。
そんな僕に、鈴木先輩はまたにっこり笑いかけて、「じゃあ、私はこれで」と手を振り、部室から出ていった。
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特技は料理と掃除と裁縫。歳の離れた弟妹たちの面倒をよく見ていたために、子どもの扱いが上手く、また自身も子ども好き。そんな鈴木に言い寄ってくる男はわんさかいる。
けれども、鈴木が「家庭的」な女であると知るやいなや、目の色を変えて距離を縮めてこようとする男たちに対し、当の鈴木はひそかにこう思っていた。
――女の家事育児能力を目当てに近づいてくる「打算的」な男とだけは、絶対に結婚したくないものだ、と。
【終】