その看板の絵の人は
気がついたとき、そこは見知らぬ街の中だった。
街はにぎわっていたけれど、人はどこにもいなかった。
というのも、辺りを歩いているのは、みんな動物だったのだ。
人間のように服を着た、二足歩行の動物たち。
ブタさん、ネコさん、ライオンさん、サルさん、ウシさん、イヌさん、ウサギさん。
そんなさまざまな種類の動物たちが、ジロジロこっちを見ながら通りすぎていく。
動物たちは、それぞれの鳴き声を使って、何やら言葉らしきものを話している。でも、何を言っているのかまったくわからない。
こまったな、どうしよう。
どこかに人間はいないのかな。
そう思いながら、辺りを見回す。
すると、ある店の看板が目に留まった。
看板に書かれている文字は、やっぱりなんて書いてあるのかわからない。
けれどその看板には、コックの姿をした人の絵が描かれていた。
どうやらレストランらしい。そういえば、料理のいいにおいがしている。
この店に入れば、とりあえず人と出会えるかもしれない。
言葉が通じるかどうかはわからないけど……それでも、とにかく人の顔が見たい。
そう考えて、そのレストランらしき店のドアを開けた。
その店のコックは、看板に描かれていたのとはちがって、人ではなくクマさんだった。
クマさんコックに見つかるなり、たちまち檻に入れられた。
厨房にある檻の中から、クマさんが調理している食材を見て、「ああ、なるほど」と思う。
人間の世界にも、あったよな、ああいうの。
コック帽をかぶったブタさんが、トンカツを載せた皿を持って「おいしいよ!」みたいな顔とポーズをしてる――……そんな絵が描かれた料理屋の看板。
【終】




