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僕に魔法を教える時「ショート・ショート」と、それ自体が重要な呪文の一節であるかのように繰り返し彼女は唱えた。実際その考え方は彼女にとってとても大事なもので、何をするにも何処に行くにも本に栞を挿み込む要領で「ショート・ショート」と囁く。
「何事も出来るだけコンパクトに収めなければいけないわ。それは魔法だって同じ。本来奇跡というものは大局には現れないものよ。大きなスケールで起こる事象は、個人で完結し得ない。他者という異分子がどうしても介在してしまう。集団行動の結果なら、それってもう奇跡ではなく、論理的な帰結でしょ。わかる?」
「わかる、と思う。なんとか」
「だからね、奇跡というのは、蕾が花開くようなとても小さな枠組みの中で起こることなのよ」
つまり個々の生命こそが奇跡ということだろうか。それとも彼女はもっと小さな「ショート・ショート」を見ているのか。
僕はシダ植物の葉をすり鉢で細かく潰しながら、そんなことを考えていた。
植物学や薬学については今までの価値観で捉えられるから、直接魔法を教わるよりも遥かに手にしっくり馴染むような安心感がある。彼女は僕が退屈していないかと心配なようだったが、濡れた土に指を入れて性質を判断したり、与えられた植物の蔓を同じ長さになるように切り揃えたり、雨水が濾されていく様子を監視したりすることの方が僕の性には合っているのだ。
「これも一つの『ショート・ショート』だよ」と言うと、彼女は「それもそうね」と笑って自室へと戻っていった。