街に来た男
朝靄の中、汽車の汽笛が鳴り響く
「お客さん、もう着きましたよ」
まどろみの中、肩を叩かれ、徐々に意識が覚醒する。
「えらい荷物だね、長期の旅行かい?」
初老にもなりそうな車掌が、私の大量の荷物を見て興味ありげに問うてくる。
「いやいや、引越しだよ、この町に住むつもりさ」
「引越しですか、大変ですな、荷物を運ぶのをお手伝いしましょう」
なかなか気の利く人だ、ただ四人がけの席を埋めるほどの荷物を見れば手伝おうという気が起きてもおかしくはないが。
「ありがとう、しかし大丈夫だ、この程度の荷物、あなたの手を煩わせる事もない」
私に言葉に車掌はきょとんとした、無理もない、私は巨漢でもなければ、体力満々の若人でもない。
「流石にお一人では無理でしょう、二人でも三往復ほどは必要な量ですよ」
優しい人だ、おそらく多くの人間から親しまれているだろう、私と違って
「ご心配なく、そもそも手を使う必要すらないのですから」
言葉と同時に荷物が浮き上がる、タンポポの綿のようにふわりと
そして浮き上がった荷物は次々と車外へ出ては、駅舎の端へ積みあがっていく
車掌は驚愕と畏敬を込めた表情で私を見る。
「迷惑を掛けたね、私のせいでダイヤに遅れが無ければいいが」
汽車を降りようとする私に、車掌は興奮気味の声で問うた
「本物ですか?」
おそらく初めて見たのだろう、非現実なまでの現実を、嘘のような真実を、虚構のような本物を
「本物さ、本物の魔術、そして本物の魔術師さ」